公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

勿体ない婚約者(ウルスド視点)

 俺は、クレーナに連れられてある場所に来ていた。
 そこには、行列ができている。その先には、食料のようなものが配られている。

「ここは……」
「今ここでは、配給が行われているのよ」
「配給……」
「ええ、貧しくて食べ物にありつけていない人達に、食料を配給しているの。ここに来ている人達は、皆そういう人達なのよ。当然、その多くは平民……皆、色々な事情があって、ここに来ることになっている」

 クレーナの言葉に、俺は固まっていた。知識として、そういうことがあることは知っていた。だが、実際に見てそれに抱く印象はまったく違う。
 俺は、ゆっくりと息を呑んだ。この光景を見て俺は改めて自分が情けない人間であることを理解した。拳をゆっくりと握りしめながら、俺はそれを噛みしめる。

「私はね……貴族というものはこういう人達の上に立っているということを理解していなければならないと思っているの。私達は、ここにいる人達がした苦労のおかげで生まれて育った。それをこの身に刻んでいなければならないと思っているの」
「……ああ、そうだよな。確かに、その通りだよ」
「私は、あなたにもそういう人になって欲しいと思っているわ。私の夫になる人が、貴族としての矜持も何も持っていないなんて、そんなのは耐えられないから……」
「悪かった……」

 俺は、クレーナに頭を下げた。
 彼女が、最初に俺の話を聞いた時、どうしてあんな顔をしたのか。それが、今ならわかる。

「こんな俺でも、お前はまだ見捨てないでいてくれるか?」
「……あなたのことはよく知っているわ。透き通るように純粋なあなたは、何も知らなかったから、あんなことが言えたのだと私は思っているの。これからのあなたは、もちろん違うのよね?」
「ああ、当然だ。俺はこれから、貴族としてしっかりと生きたいと思っている」
「そう……それなら、いいのよ。人は誰でも間違いを犯すもの……その間違いを正すことができるかどうかが、私は大切だと思っているわ。あなたは、それをしようとしている。それなら、問題はないわ」

 クレーナは、そう言って俺に笑顔を見せてくれた。
 その明るい笑顔に、俺は見惚れていた。彼女は、なんて優しく心が広いのだろうか。俺には、勿体ない程にできた婚約者だ。

「……まあ、あなたが役割を果たして、次の世代にそれを託せたとしたら、自由に生きるというのも悪くはないかもしれないわね」
「それは……」
「それまで、二人で頑張るとしましょうか」
「……ああ」

 差し出されたクレーナの手を、俺はしっかりと握りしめた。
 こうして、俺は自らの甘い認識を妹と婚約者のおかげで、改めることができたのである。
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