公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

奮起する理由(エルーズ視点)

「……その、ルネリア、大丈夫かい?」
「大丈夫……?」
「少し……顔色が悪いような気がするんだ。僕が、変な話をしたからかな。そうだったとしたら、ごめん。その……僕は、大丈夫だから」

 僕は、ルネリアが安心するようにゆっくりと話しかけた。
 僕は馬鹿だった。いくら自分の境遇が悲惨であると思っているとしても、それを態度に出して妹を泣かせていいはずはない。
 僕は、彼女の兄である。アルーグお兄様やウルスドお兄様のように、彼女の前では気高き姿を見せなければならないのだ。

「……ごめんなさい。多分、お母さんのことを思い出していたんだと思います」
「え?」

 そんなことを考えている僕に、ルネリアは驚くべきことを言ってきた。
 お母さん、彼女がそう呼ぶのは僕達の母親ではなく、彼女の実の母親だ。
 僕は、今までの自分の言動を改めて思い返す。そうするとわかる。僕は、まるで生を諦めているかのようだったと。
 それが、僕の本心かどうかなんてどうでもいい。重要なのは、そんな僕の態度がルネリアにどう思われていたかだ。

「ルネリア、君は……」
「エルーズお兄様?」
「ごめん、僕は……僕は」

 僕は、ルネリアの手を力強く握り返した。
 益々自分が情けなくなってくる。僕は、彼女の一番辛い記憶を引き出してしまったのだ。
 それは、許されることではない。僕は兄失格だ。

「……大丈夫だよ、ルネリア」
「え?」
「僕は、大丈夫だから」

 僕は、ゆっくりとそう呟いた。
 それは、今までの大丈夫とは違うものだった。



◇◇◇



 ルネリアとの話を終えてから、僕はお母様の部屋に来ていた。お母様に言いたいことがあったからである。

「それで、話とは一体何かしら?」
「お母様、僕は治療を受けたいと思います」
「エルーズ、あなた……」

 僕の言葉に、お母様は目を丸めていた。それは、当然だろう。なぜなら、今まで僕はそれをずっと避けていたのだから。

「先程、ルネリアと話しました。彼女を見ていて思ったのです。妹を泣かせたくないと……僕は、あの子に安心してもらいたい」
「エルーズ……」

 お母様は、ゆっくりとこちらに歩いてきた。そのまま、僕は抱きしめられる。お母様の体は、少し震えていた。

「あなたがそう言ってくれて嬉しいわ」
「お母様……」
「頑張りましょう、エルーズ」
「はい……」

 僕は、お母様の体をゆっくりと抱きしめた。
 これから大変かもしれない。でも、頑張りたいと思う。
 妹を泣かせたくない。その一心を胸に抱き、僕は奮起するのだった。
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