公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

一筋の涙(エルーズ視点)

「僕は、生まれた時から体が弱かったんだ。人よりも体力がないし、すぐ風邪を引くし……それは、生まれ持った性質みたいなんだ」
「そうだったのですね……」

 僕は、ルネリアに自分の事情を打ち明けた。
 それは、口に出すと辛いことだ。なぜなら、今目の前にいるルネリアのように悲しそうな表情をされるからだ。
 それを見ていると、心が痛くなってくる。彼女のこんな顔は、できれば見たくなかった。それは、仕方ないことなのかもしれないけれど。

「……治らないんですか?」
「わからない。治るかもしれないし、治らないかもしれない」

 ルネリアが最初に聞いてきたのは、そんなことだった。
 治らないのか。その質問は、中々に答えにくい。
 お医者様から、治療やリハビリを頑張れば治るかもしれないと言われている。
 つまり、治るかどうかはわからない。可能性はあるといった所だろうか。

「可能性でしかないんだ。治療とかリハビリとか、色々すれば治るのかもしれない。その程度でしかないんだよ」
「エルーズお兄様……」

 僕の紡ぎ出した言葉に、ルネリアは震えていた。
 自分でも少し語気が荒くなっているのは自覚している。こういうことを言う時、僕は穏やかではいられないのだ。
 彼女には、少し酷なことかもしれないが、これには耐えてもらいたい。後少しで、いつも通りの僕に戻れると思うから。

「……ルネリア?」

 そこで、ルネリアは僕の手を握ってきた。その手は、とても力強い。
 彼女の温もりが、僕に伝わってくる。しかし、何故彼女は急に手を握ってきたのだろうか。

「どうしたんだい? 急に?」
「あっ……ごめんなさい」
「いや、別にいんだけど……」

 ルネリアは、自分の行動に驚いていた。つまり、彼女にとってこれは無意識の行動だったようである。
 どうして、彼女はそのような行動をしたのだろうか。それが、僕にはわからない。きっと、ルネリア自身にもそれはわからないのだろう。

「えっ……?」
「エルーズお兄様? どうかされましたか?」
「な、なんでもないよ……」

 そこで、僕はルネリアの顔をはっきりと見た。今で、自分のことに気を取られていて、彼女の顔を見られていなかったのだ。
 ルネリアの目からは、涙が流れていた。一筋の涙が、ゆっくりと彼女の頬を伝っていたのである。
 それも、彼女は気づいていないのだろう。無意識の内に、彼女は涙を流していた。それは、どういうことなのだろうか。
 わからないことは多い。だが、一つだけわかることがある。それは、僕の言動が、彼女にそうさせたということだ。
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