公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

私の希望(とあるメイド視点)

 村の人達は、本当に優しい人ばかりだった。皆、私を気遣い助けてくれるような人ばかりだったのだ。
 この世界にこんなに優しい場所があるなんて驚きだ。そんなことを思いながら、私は村での生活を送っている。
 日にちが経つにつれて、私のお腹はどんどんと大きくなっていった。事前に村の人達には伝えていたので、それに驚かれることはなく、皆新たな命の誕生を祝福してくれていた。
 私自身も、それは同じである。不思議なことに、この身に宿る命が無事に生まれてきてくれることに、私は喜びを感じるようになっていたのだ。
 そして、私が絶望の淵に立たされてから、実に一年近くもの月日が流れて、希望が生まれてきたのである。



◇◇◇



「お母さん!」

 そう言って私に笑いかけてくるのは、私の娘のルネリアだ。
 彼女が生まれてから早いもので、もう八年もの月日が経っている。ここまで、色々なことがあった。本当に、色々なことがあり過ぎたのだ。
 だが、今の私の感情というものは、ただ一つである。毎日が楽しい。ただ、それだけなのだ。

「どうかしたの?」
「いいえ、なんでもないのよ」

 私は、ルネリアと一緒に農民として働いている。村の人達が分け与えてくれたこの家と畑で、最愛の娘と暮らすという生活は、私にとって幸せでしかない。
 過去のことなんて、今の私にとってはもうどうでもいいことである。この幸せが続いてくれるならそれでいいのだ。

「ラネリア、ルネリア、調子はどうだい?」
「あ、村長、おはようございます。今日も、絶好調ですよ」
「うん! 私も元気だよ!」
「そうかい、それは何よりだな」

 村長さんや村の人達とも、もう随分と長い付き合いになる。彼らの助けがあったからこそ、私は今ここにいられる。そんな彼らに、私は感謝の気持ちでいっぱいだ。

「それにしても、ルネリアも随分と大きくなったなあ。この間生まれたばかりだと思っていたのに……」
「そうですね……子供の成長とは、早いものです」
「うん?」

 私と村長の会話に、ルネリアは首を傾げていた。彼女にとって、八年という月日は長いものだっただろう。その時間のギャップが、ルネリアにはまだわからないのだ。

「さて、それじゃあ、俺はそろそろ行くよ。今日も、頑張りな?」
「はい」
「うん!」

 村長は、私達に笑顔で手を振ってから去って行った。
 この村は、皆こんな感じだ。温かい人達ばかりなのである。ここに来られて、ここで生きられて、私は本当に幸運だ。

「さて、ルネリア、それじゃあ今日も頑張って働きましょうか」
「うん! お母さん!」

 私の言葉に、ルネリアは大きく頷いてくれる。彼女の笑顔が、私に力をくれる。彼女こそが、私の希望なのだ。
< 38 / 135 >

この作品をシェア

pagetop