公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

感じる視線(とあるメイド視点)

 私は、今日もルネリアと一緒に畑仕事をしていた。
 今日もいつもと変わらない毎日である。つい先程まで、私はそう思っていた。
 しかし、私はあることに気づいていた。私とルネリアのことを誰かが見ているのだ。

「ルネリア、少し用事を頼まれてくれるかしら?」
「え? 何?」
「隣のウェリチさん達に、これを持って行って欲しいの」
「う、うん」

 私は、ルネリアにメモを渡した。そこには、彼女をしばらくの間頼みたいという旨が書いてある。
 私は、私達を監視する何者かと対峙するために、ルネリアを隣のウェリチさん達に預けることにしたのだ。
 ルネリアは、私の方を時々振り返りながら隣の家に向かう。距離としてはそこまでなく、そもそもウェリチさん達も目に入る所にいるため、私はルネリアが隣に行くのを見届けることができた。
 その後、私は自らの背後を振り返る。そこには、誰もいない。だが、確実に誰かが見ている。

「行ってみるしかないわね……」

 私は、ゆっくりとそちらの方向に歩いていく。
 恐怖はあった。だが、ルネリアを守るためにも、私はその視線を見て見ぬふりなどできないのである。

「……あなたは?」

 私達を監視していた人物は、特に逃げることもなかった。
 その人物は、フード付きのマントを纏っており顔も見えない。明らかに、怪しい人物である。
 一体、この人物は何者なのだろうか。何のために、私達を監視していたのだろうか。

「……え?」

 私の質問に答えることなく、謎の人物はそのフードを取った。
 そこから見えた顔に、私は驚く。その顔は、私が知っている顔だったからだ。

「……アルーグ様?」
「……久し振りですね」

 その人物は、明らかにアルーグ様だった。私が知っている時よりも顔つきは少し変わっているが、間違いない。
 しかし、何故ラーデイン公爵家の長男が、私の前に立っているのだろうか。その意味が、私にはわからない。
 ラーデイン公爵家が私達を見つけ出した。それは、別におかしいことではない。血を引いているルネリアのことが気になるというのは貴族として当たり前のことだ。
 だが、それでわざわざ長男が来るはずはない。使いの者で済ませるはずだ。

「どうして……あなたがここに?」
「簡単なことです。あなた達のことを調べていたのです」
「調べる……公爵家の血を引く者を監視しているということですか? あなた自らが?」
「いえ、そういう訳ではありません……これは、私の気まぐれです」
「気まぐれ?」

 アルーグ様が何を言っているのか、私にはあまりわからなかった。
 彼は、一体何を考えているのだろうか。これは、彼から話を聞く必要があるだろう。
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