公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

事情を知って(お母様視点)

 私は、手に持っていた手紙をゆっくりと閉じた。
 そこに刻まれていたのは、一人の母親の壮絶な人生である。
 これによって、私は知らなかった今回の事件の裏側を知ることができた。まさか、そんな事実が隠されていたとは驚きだ。

「……セリネア」

 私の目からは、自然と涙が流れていた。
 この公爵家に仕えていたセリネアというメイドのことは、よく覚えている。優しく明るいメイドだった。子供達にも好かれているいいメイドだったのだ。
 そんな彼女が急にいなくなったことを、私は本当に家の事情だと思っていた。男爵家に問題が起きたという知らせをすぐに受けたし、違和感すら覚えていなかったのである。
 だが、考えてみればおかしい部分はたくさんあった。どうして気づかなかったのだろうか。今更、私は後悔する。

「なんて、愚かな……」

 私は、改めて夫の愚かさを実感していた。
 彼は、セリネアの人生を滅茶苦茶にしたのである。それは、許されることではないだろう。
 真実を知った今、私の中にあった彼女に対する恨みはほぼ晴れている。だが、夫に関しては未だ尚許せない。
 結局の所、彼は何もしなかった。自分の罪を隠し続けて、私もセリネアも傷つけて、ただそれだけだったのである。

「それでも……私は、ここに留まらなければならないのね」

 正直言って、彼への愛想は尽きている。だが、それでも、私はここにいなければならない。子供達がいるこのラーデイン公爵家から、離れる訳にはいかないのだ。
 アルーグやイルフェアに関しては、問題はないだろう。だが、ウルスドは貴族として未熟で、エルーズは病気のことがあるし、オルティナは、まだまだ子供だ。そのため、私はここにいなければならない。

「それに……」

 それに、ここにはルネリアもいる。セリネアの忘れ形見の彼女は、オルティナ以上に子供だ。そんな彼女の元から、私が去ってはならないだろう。
 セリネアの代わりとはいわないが、私は彼女の母親にならなければならない。それが、夫のせいで人生を狂わされた一人のメイドへのせめてもの償いである。

「いえ、そうではないわね」

 いや、ルネリアに対するこの感情を償いなどということはやめよう。別に、私は申し訳なさからあの子に接している訳ではないのだから。
 親と子供のことは別、そう考えると私は決めている。だから、セリネアへの償いではなく、あの子が可愛いからという理由でいいはずだ。

「セリネア……あなたには、敬意を表するわ」

 最後に、私はセリネアに向かってそう呟いた。
 それは、浮気相手とかそういうことではなく、ただ母親としての呟きだ。
 彼女は苦しみながらも、子供を守ろうとした。そのことに対して、私は心からの敬意を表するのだった。
< 44 / 135 >

この作品をシェア

pagetop