公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

希望を託して(とあるメイド視点)

 余命を告げられた私は、アルーグ様に連絡を取った。彼に、あることをしてもらいたかったからである。
 手紙を送った所、彼からの返信は早かった。迅速な対応をしてくれたのだ。
 それは、私の状態がこんな状態だからなのかもしれない。きっと、アルーグ様も同情してくれているのだろう。
 そんな彼の手引きで、私はある場所に来ていた。ここは、ラーデイン公爵家の別荘である。

「……久し振りだね、セリネア」
「……来ましたか」

 私が部屋で待っていると、一人の男性が現れた。
 その人物の名前は、ラディーグ・ラーデイン。ラーデイン公爵家の現当主である。

「……君が、どうして私を呼び出したのかはわからない。だが……」

 現れてすぐ、彼は床に膝をついた。そして、そのまま、ゆっくりと頭を下げる。

「すまなかった……私は、取り返しのつかないことを……」
「……そんなことは、今はどうでもいいことです」

 彼からの謝罪に、私の心はちっとも動かなかった。
 今更謝られた所で、なんだというのだろうか。それが、私の素直な感想だったのである。
 そもそも、私は彼に謝られたくてここに来た訳ではない。もっと重要な話があるから、ここに来たのだ。

「アルーグ様から聞いていますか? 私には、娘がいます」
「ああ、聞いている……」
「彼女のことが、私は自分の命よりも大切です。何があっても、私は彼女を守らなければならない」

 私は、少し息苦しくなってくる。目の前の彼に、今からこんな頼みごとをすることをしなければならないという事実に、私は苦しくなっているのだ。
 だが、これが一番いい形であると私は思っている。私が死ぬなら、ルネリアを託せるのは、目の前にいるこの男しかないのだ。

「私は、もうすぐ死にます。だから、あなたにルネリアを託したい」
「私に……?」
「あなたは、あの子の父親です。あの子を守る義務がある。私の代わりに、あの子を守ってください」

 私は、ルネリアをラーデイン公爵家に迎え入れてもらうことにした。
 それは、今まで避けてきたことだ。ルネリアがそれで幸せになれるとは思えない。そう考えていたからである。
 だが、私が死ぬならその前提は覆ってしまう。彼らにルネリアを託す以外、道はないのだ。

「……それは、もちろん構わない。だが、いいのかい?」
「ええ」

 村の人達は、いい人達である。彼らなら、ルネリアを温かく迎え入れてくれるかもしれない。
 だが、私は平民の暮らしを知っている。子供が一人増えるだけで、どれだけその生活は苦しくなるだろうか。
 父親がいて、私はそれを知っている。それなら、ルネリアは彼に預けるべきだ。それが、私の結論である。

 それに、血の繋がりというものは、強固なものだ。目の前の男が、どういう人間かは知っている。少なくとも、子供に対する愛情は確かな男なのだ。きっと、ルネリアのことを裏切ったりはしないだろう。
 さらにいえば、アルーグ様もいる。彼なら、きっとルネリアの助けになってくれるだろう。そういう思いが、私の中にはあるのだ。

 ただ、奥様や他の子供達が、ルネリアに対してどういう感情を抱くかはわからない。そこに一抹の不安はある。
 だが、それでもこの選択が正しいはずだ。

 こうして、私はルネリアを公爵家に預けた。
 そして、そのまま彼女と過ごせる最後の時間を過ごしたのだ。その時間の一つ一つを噛みしめるように。
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