公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

教えの理由

「先生は、いつも平民を大切にするように言っている。それには、何か理由があるのか?」
「ええ、もちろん理由はあります。恐らく、今サガード様が聞きたいのは、私の経験則ということでしょうか?」
「ああ、そうだ」

 サガードとリオネクスさんは、そのような会話を交わした。なんというか、二人だけでわかったような会話をしている。私は、少し蚊帳の外だ。

「ええ、そうですね……私の家は、平民を蔑ろにした結果、没落したようなものです」
「やっぱり、そういうことなのか……」

 リオネクスさんの言葉に、私は少しだけ理解できてきた。サガードは、彼の教えがどこから来たものかを探っていたということだろうか。
 彼は没落貴族だった。そんな彼が平民を蔑ろにしてはならないといっている。その理由が、経験則であると考えるのは自然なことだ。

「私にとっては、苦い経験です。ですから、教え子の皆さんにはそういう経験はしないようにして欲しいのです」
「そうなのか……いや、それはそうだよな」
「サガード様は、あそこに行って私の意図を理解したようですから、この話は不要だと思っていました。ですが、もしかしたら聞かせた方がいいのかもしれませんね」

 リオネクスさんは、遠くを見つめていた。それは恐らく、過去を振り返っているのだろう。
 その顔は、少し悲しそうである。苦い経験といっているのだから、あまり積極的に話したいことではないのだろう。
 そんなリオネクスさんの様子を見て、私とサガードは顔を見合わせる。彼の過去に興味がない訳ではないが、それを聞く必要はあるのだろうかと。

「先生、別に話さなくていいぜ。平民を蔑ろにしてはならないということは、俺もよくわかっている。俺はそういう高慢な王族にならないと約束するからさ」
「サガード様……」

 サガードは、先生を止めた。そんなことは話さなくても、自分は大丈夫だとそう宣言したのだ。
 きっと、その言葉に偽りはないだろう。彼は、きっとリオネクスさんの教えを守り、立派な王族になるはずだ。
 それが間違いないことは、リオネクスさんもわかっているだろう。なぜなら、彼はサガードのことを信頼しているからだ。

「そうですね……こんな場ですから、あまり辛気臭い話はするべきではないのかもしれませんね」

 サガードの言葉に、リオネクスさんは笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いた。
 その笑みは、いつもの笑みだ。飄々とした彼が、戻ってきたのである。
 そのことに、私もサガードも安心する。やはり、この笑顔のリオネクスさんの方がいい。
 こうして、私達はしばらく談笑を続けるのだった。
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