公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

前提として(イルフェア視点)

「……サガードには悪いが」

 私が落ち込んでいると、キルクス様がそう切り出してきた。
 その表情には、少しだけ陰りがある。私は、とりあえず彼の言葉を待つ。

「俺はお前を手放したくないと思っている」
「キルクス様、それは……」
「弟や妹のために俺達が身を引く。そのようなことはしたくない。俺は、お前以上の婚約者は……妻は、いないと思っているからだ」

 キルクス様は、私の目を真っ直ぐに見てそう言ってきた。
 その言葉は、とても嬉しい言葉である。思わず笑顔になってしまう程には。
 サガード様には、本当に悪いのだが、私も彼とは別れたくはない。この婚約は、解消したくないのだ。

「ありがとうございます……嬉しいです。私も、キルクス様とは、別れたくないと思っています」
「そうか……」

 私は、キルクス様にお礼とともに素直な気持ちを伝えておいた。
 彼は、少しだけ照れているような気がする。それは、珍しい表情だ。そういう表情が見られるということにも、私は嬉しくなってしまう。

「……もちろん、あいつが俺に協力して欲しいと言ってきたなら、協力を惜しむつもりはない。最大限協力するつもりだ」
「……つまり、私達も二人も幸せになれる道を目指すということですね」
「ああ、そういうことになるな」

 私達の婚約を維持しつつ、二人も結ばれる。それが、一番いい結末だろう。
 それを成し遂げるのは、難しいことかもしれない。しかし、それでも実現を目指すべきだ。何もしていないのに、諦めるべきではない。

「……もっとも、そもそもルネリアがあいつの思いを受け入れるかどうかは、わからないのだが……」
「あ、そういえば、そうですね……」

 キルクス様の言葉で、私は気付いた。
 よく考えてみれば、二人が結ばれるかどうかは、まだわからないことだったのである。
 恐らく、今はまだサガード様の片思いだ。その思いが実るかどうかは、ルネリア次第である。

「実際の所、ルネリアはどうなのだ?」
「えっと……多分、悪い印象を抱いているという訳ではないとは思います。ただ、異性として好意を抱いているどうかは、微妙といいますが……」
「いい友達といった所か……」
「まあ、そうですね……」

 ルネリアは、今の所サガード様を異性として見ていないだろう。友達としか、思っていないはずである。
 少なくとも、私は彼女からそういう話を聞いたことはない。だが、サガード様のことを話す時は楽しそうにしているので、脈がない訳ではないだろう。

「……ふむ、まあ、しばらくは成り行きを見守るとするか」
「ええ、そういうことになりそうですね……」

 結局、私達の婚約と二人の婚約の問題と直面するのは、まだ先になりそうだ。
 もしかしたら、そうなると時には私とキルクス様は既に結婚しているかもしれない。そんなことを思いながら、私は苦笑いするのだった。
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