公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

口にするのは(イルフェア視点)

「……前提として、私はキルクス様のことが好きよ」
「そうなんですね……」

 とりあえず、私は前提を話すことにした。
 私は、キルクス様のことが好き。それを言葉にするのは、意外にも恥ずかしいことだった。
 それは、今までも心の中では思っていたことだ。だが、考えてみれば、こうやって言葉にする機会というものは少なかったように思える。
 そう考えると、ルネリアの悩みも少し理解できてきた。確かに、好意というものは難しいものかもしれない。

「彼のことが好き……えっと、そうね。例えば、ルネリアはサガード様に抱きしめられたいと思うかしら?」
「え?」
「……私は、キルクス様に抱きしめられたいと、そう思うのだけれど、ルネリアはどうなのかしら?」

 私は、まずそんな質問をしてみることにした。
 質問をしながら、私は自分の体が熱を帯びていることを自覚していた。
 妹達の前で、私は何を言っているのだろうか。口にしてから、自分の言っていることがどんどんと恥ずかしくなってきたのだ。

「そうね……言い方を変えましょうか。ルネリアは、サガード様に抱きしめられても大丈夫だと思う? 嫌だと思ったりしない?」
「それは……しないと思います」
「そう、そうなのね……」

 ルネリアが悩んでいたので、私は少し質問の仕方を変えてみた。
 どうやら、彼女はサガード様に抱きしめられても問題ないらしい。その答えだけでも、好意を抱いているといえなくはないだろう。
 だが、まだぎりぎり親しい友人の範疇という可能性もある。抱きしめてもらいたいならともかく、嫌ではないというだけなら、確証とはいえないだろう。

「私は、キルクス様の傍にいると安心するというか……なんていえばいいかはわからないけれど、心地いいと思えるのよね。ルネリアは、サガード様といてそんな気分になったりしない?」
「えっと……サガードといて、楽しいとは思います」
「楽しい、か……そうね。まあ、私もキルクス様といて楽しいとは思っているけれど……」

 私は、ルネリアに新たに質問してみた。
 だが、これはあまり有効な質問ではなかったような気がする。
 一緒にいて楽しい。それは、友人でも恋人でもそういえるだろう。
 正確には差があるはずだが、それは言葉にすると同じことだ。その差異を口にできる程、ルネリアはまだ自分の気持ちがわかっていないのだから、答えは出ないだろう。

「……中々、難しいものね?」
「そ、そうですね……」

 私とルネリアは、悩んでいた。
 好意を持っているかどうか。その結論を出すというのは、結構難しいようだ。
 何か明確なものはないか。私は、それを考えるのだった。
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