君の隣で歌いたい。

 二人そろって階下のリビングに向かうと、広いテーブルには豪華な料理が並べられ、既に両親が席についていた。

「遅くなりました」

「凛夏、何度も言ってるでしょう。おとうさんを待たせないで」

「すみませんおとうさん」

「いやいいんだよ。さあ食事にしよう」

「どうせまたピアノを弾いていたんでしょ? いい加減勉強に集中しなさい」

 私が夕飯に遅れたことでピリピリしている母と、いつも笑顔でなにを考えているか分からない母の再婚相手。

 肩身が狭い思いで料理に手をつけると、透流さんが思い出したように口を開いた。

「凛夏ちゃん、よかったら僕が勉強を見ようか?」

「えっ」

 唐突な提案に舌を噛みそうになる私を尻目に、母が嬉々として手を合わせる。

「それはありがたいわ。透流くんは国立の医大生だもの。きっと勉強を教えるのも上手でしょうし。ねえあなた」

「そうだなぁ。凛夏ちゃんはどうかな?」

 三人の視線が一気に刺さる。私は食べかけのポークチョップをごくりと飲み込み、その視線から逃げるように俯いた。

「あの……じゃあよろしくお願いします」

 とても拒絶なんてできる雰囲気じゃない。

 このどうしようもない閉塞感。

 私の幸せな家族関係は、一年前、母の再婚で壊れていた。

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