夫婦ごっこ
「奈央、ありがとうな。でも、旦那は大丈夫なのか? 家で待ってんじゃねぇの?」
「大丈夫だよ。今日は義昭さん帰り遅いの。家帰っても一人だから、今日届けに来ちゃった」

 義昭の帰りが遅いのは本当だ。今日は特別遅くなりそうだと連絡を受けたのだ。夕飯もいらないと言うから、それなら今日由紀のところへ行こうと決めたわけだ。

「お義兄さん、お仕事忙しいの?」
「うん。しばらくは忙しいみたい」
「お前、いつもほっとかれてるってわけじゃないよな?」

 義昭のことを悪く言われて、奈央はムッとしてしまった。修平は未だに義昭のことをよく思っていない節があるようだ。あれほど優しい人はいないというのに。奈央は感情的に強く言い返したくなるのを堪えながらも、はっきりと否定の言葉を吐いた。

「そんなわけないでしょ。本当に今は忙しいだけ。なんで修平は義昭さんのことそう穿った目で見るわけ?」
「悪い。どうもあの人は腹の底を見せない感じがして、お前が騙されてるんじゃないかって心配になるんだよ」

 鋭いことを言われて少しドキッとした。確かに義昭には人に見せていない部分があるが、それは見せるべきではないから見せていないだけで、それだって彼の優しさだ。人を騙すような人ではない。
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