夫婦ごっこ
 奈央は一人になると、ここ数日の義昭とのことを思い返していた。

 義昭が奈央の想いを知っても迷惑に思っていないことはちゃんとわかった。遠慮している感じもない。けれど、まるで両想いのような雰囲気を醸し出してくるから、奈央はもうずっと混乱している。

 義昭を奈央に惚れさせればいいと言ってくるのはまだいいのだ。そのくらいには好感を持ってくれているということだろうし、奈央も前向きな気持ちになれる。だが、義昭から距離を詰めてくるのはどう考えてもおかしいだろう。これでは義昭が奈央を惚れさせにかかっている。実は義昭も奈央に惚れてくれているのではないかと疑ってしまいたくなるが、それならば奈央の告白を素直に受けているはずだ。自分を惚れさせればいいなんて言ってこないだろう。

 だとすれば、義昭はいったいどんな感情で奈央と接しているのか。奈央のことをかなり気に入ってくれているのはわかる。でも、恋愛方面ではないようだし、やはり家族愛かと考えてもみるが、家族愛にしてはいき過ぎている気がする。いったいどの感情が正解なんだとあれこれと考え、奈央がようやく導き出した一つの答えは愛玩動物だった。

 義昭はやたらと奈央に甘えろと言ってくる。奈央を甘やかしたくてたまらないようなのだ。もしも自分が愛玩動物の立ち位置だったとしたらとてもしっくりくる。ペットをかわいがりたいという心情なのではないだろうか。ペット扱いかと思うと複雑な気持ちになるが、よくわからない感情を向けられていると思うよりも精神衛生上いい。かわいがってくれること自体に悪い気はしないのだし、今はそういう対象だと思っておけば、変に心を乱されなくて済むだろう。

 いずれにせよ恋愛感情ではないだろうから、今の感情から恋愛方面へシフトできるのかどうかは甚だ疑問だが、そばにいることを許してくれるなら今はもう何でもよかった。慶子の話をされればきっとつらいだろうがそこはもう覚悟の上だ。義昭に想いを告げると決めたときに腹を括っている。少しでも義昭との穏やかな時間を取り戻したいと今はそう思っていた。
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