夫婦ごっこ
「血がつながっていないとはいえ、家族に恋をしてしまったんです。幼いながらにそれが普通でないことはわかりました。口にしてはいけない想いだと気づいていました。だから、姉への恋心はずっと隠して生きてきたんです。いずれまた誰か違う人を好きになれるはず。そう願って過ごしてきましたが、三十二歳になるこの歳までただの一度も姉以外を好きになることはありませんでした。姉はすでに結婚していて、今は二児の母ですが、それでも私はまだ姉を好きなんです。気持ち悪いですよね、こんな話」
「気持ち悪くなんてありません! 生方さんがとても一途な人というだけです」

 義昭が気持ち悪いと言ったのは、きっと自分のことをそんなふうに思っているからだろう。奈央も同じだからわかる。妹の恋を素直に応援できない自分が大嫌いなのだから。

 でも、義昭のことを気持ち悪いだなんて思わない。一人の人をずっと愛し続け、それを隠し続けている彼はきっととても深い愛の持ち主だ。そんな人が気持ち悪いわけない。

 きっと義昭は奈央よりもずっとずっとつらい思いをしてきたのだろう。血のつながりはなくとも、本当の家族を好きになってしまっただなんて、奈央以上にその想いを悟られないよう、ずっと気持ちを押し殺して生きてきたに違いない。奈央は義昭の気持ちを想像して、我がことのように胸が痛くなった。

「ありがとうございます。あなたを信じて話してよかった。奈央さん。私のことを気持ち悪くないと言ってくださるのなら、あなたもさらけ出してしまいませんか? 一人でずっと抱えているのはつらいですよね? 少なくとも私はあなたに否定されなかったことでとても心が軽くなりました。私にも同じ手助けをさせてもらえませんか?」

 心が軽くなったというのが本心であればいいと思う。でも、義昭は自分のことよりも奈央のことを考えてそう言ってくれたような気がした。奈央が話しやすい状況を作ろうとしてくれているのだと思う。ここまでお膳立てされてしまえば、もう逃げることなんてできないだろう。
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