夫婦ごっこ
 そのまま何も言わずにベッドの掛け布団をめくりはじめたから、もう寝てしまうのかと少し残念に思っていたら、なぜか義昭は奈央のほうを振り向いてベッドを指し示してきた。

「はい、奈央さん、どうぞ?」
「え?」
「手繋いでたいんでしょう? でも、僕はもう睡魔に勝てそうにないから」

 どうやら一緒に寝ようと言っているようだ。これまでうっかり奈央が義昭との距離を詰めすぎると義昭はいつも警戒心を持てと怒っていたのに、これでは立場が逆転している。

「……いつもは警戒心がどうとか言うくせに。急に大胆」
「僕らはもう夫婦だから。どうせお互い下心はないんだし大丈夫だよ」

 確かに一緒に寝ても何かが起きるとは思わないが、いつも慌てている側の義昭がこうも余裕でいるとどうにも面白くない。奈央は促されたベッドに入りながらも、負け惜しみのような言葉を投げていた。

「私に襲われても知らないんだからね?」
「ははは。奈央さんに襲われるなら本望だよ」

 義昭は本当にもう限界だったようで、奈央の隣に横になってすぐに寝入ってしまった。そして、奈央も義昭が近くにいる安心感からか、すぐに睡魔が襲ってきてあっという間に眠ってしまった。

 翌朝、目覚めれば、二人とも同じベッドで寝ていたことに驚いてしまって、それがなんだか間抜けな感じがして、二人は朝から大笑いしたのだった。
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