夫婦ごっこ
 すっかり涙が枯れ、気持ちも落ち着いてくると、奈央は今だ優しく奈央を抱きしめてくれる義昭から少し体を離すようにして義昭に声をかけた。

「義昭さん」
「落ち着いた?」
「うん……ごめんなさい。みっともないところ見せて」
「ううん。僕にはどんな姿見せてもいいって言ったでしょ? それにみっともないなんて思わないよ。奈央さんのその苦しさはよくわかるから」

 自分のことでいっぱいいっぱいだったが、言われてみれば義昭は同じような状況をすでに経験しているのだと気づいた。しかも二度も。義昭はそれを一人で乗り越えなければならなかったのかと思うと自分のこと以上に胸が痛くなった。

「……義昭さんもつらかった?」
「そうだね。つらかったよ。でも、嬉しい気持ちもあるからね。どうにか折り合いをつけてやってきた」

 思っても仕方のないことだが、そのときの義昭を自分が慰めてやりたかったと思う。義昭がしてくれたように、自分も義昭の寄りかかれる場所になりたかった。

「そっか。じゃあ、義昭さんのことは私が慰めたい。今からでも抱きしめていい?」
「うん。抱きしめて?」

 先程とは変わって、今度は奈央が義昭をあやすようにして抱きしめた。義昭の背中をそっと撫でさする。今さらかもしれないが、少しでも義昭の傷が癒えてくれればとそう願わずにはいられなかった。

「義昭さんも頑張ったね。でも、私には弱音吐いて? 義昭さんも私に甘えてほしい」
「ありがとう、奈央さん。奈央さんがそばにいてくれて本当に救われてるよ」
「私も。また義昭さんのおかげですごく楽になった。ありがとう」

 嫌な感情すべてが消えてなくなったわけではないが、義昭にすべてを受け止めてもらったことで、自分を蔑むような思考からは脱却できた。きっと次に由紀に会えたなら、もっと素直な気持ちで祝福の言葉を言えると思う。あんなに苦しくて仕方なかったのに、大分楽に呼吸できるようになっている。まだ残っている苦しさはきっと時間が解決してくれるだろう。
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