私があなたの隣にいけるまで、もうあと少し

私があなたの隣にいけるまで、もうあと少し


 ついこの前まで夏のような暑さが続いていたと思ったけれど、気が付けば急に秋がやってきていたようで、薄手のカーディガンが手放せない気候になっていた。日差しは暖かくはあるけれど、日陰を歩いている時に感じる風は、少し肌寒く感じる。

 ようやく秋が来たんだなぁ。

 うんざりしていたはずの暑さが、少しだけ恋しくなったりするから不思議だ。


 そんな秋の今日この頃、私達は修学旅行で沖縄に来ていた。沖縄は私達の住んでいる地域よりも、少しだけ暖かかった。

 初めての飛行機に初めての沖縄県。もちろん楽しみではあったのだけれど、なんとなく物足りなく感じてしまうのは、気になる人と一緒に行動できないから、なのだろうか。

 それもそのはず、私の気になる人は班どころか、クラス自体が違うのだ。合同授業だって、なにひとつ被っていない。そもそもクラスも分からない。廊下でたまにすれ違えたらラッキー!くらいの関係である。


 私は彼に一目惚れしていた。

 暑い真夏の日、私は音楽室から彼がグラウンドで部活動に打ち込む姿をずっと見ていた。

 気が付けば彼を目で追っていて、話したことなんて一度もないのに、次第に恋心が大きくなるのを感じていた。部活動に真剣な姿、友人達と笑い合う姿。そのどれもが私の目を引いた。

 そんな折、一度だけ彼と話す機会がおとずれた。

 その日も今年の最高気温を更新するほどの暑さで、私は喉を潤そうと昇降口前の自販機へとやってきていた。そこで落とした百円玉を拾ってくれたのが、例の彼だった。

 ほんの短い会話ではあったけれど、私はやっぱり彼のことが好きだなぁ、とその時改めて思ったのだった。


 それからは残念ながら一度も話せていない。話すきっかけも、話しかける勇気もない。

 彼は友達が多そうだから、一度ちょこっと話しただけの私のことなんて、きっともう全く覚えていないだろう。

 それでも少しだけ期待してしまうのが修学旅行というもの。

 泊まっているホテルは一緒だし、朝ごはんや夕ご飯はホテルでのバイキングだったはずだ。全クラス合同での食事だ。クラスを確認したり、一目彼を見られるだけでもいい。いや、やっぱり欲を言えば、彼と一言でも話せたらな…なんて。

 そう一縷の望みを捨てきれずに、期待ばかりが膨らむ修学旅行が始まった。


 せめて彼がどこのクラスなのかだけでも知っていたら、クラスの移動ルートが分かったのに。

 学校から配られた修学旅行のしおりを一人睨みつけながら、私は嘆息した。

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