熱情滾るCEOから一途に執愛されています~大嫌いな御曹司が極上旦那様になりました~
「はあ、さすがに私も今から葵と百合を交換しますとは風尾社長には言えないわ。だから、さっきのは冗談だけど、葵は百合を見習って家庭的で穏やかで女性らしい妻になってほしいわね」

母の話はもう半分以上耳に入ってこなかった。頭の中がぐるぐると回る。
過去の百合を思い返す。どこに滲んでいただろう。成輔への気持ちが。私とお見合いの話が出たとき、どうして百合は背中を押したのだろう。
過去の記憶の中からふと思い当たることがあった。

「ハンカチ……」
「なに? どうしたの、葵」
「や、なんでもない」

私は残りのお菓子を味もよくわからない状態で口に押し込んだ。もぐもぐと咀嚼し、お茶で流し込む。

「そういえば、忘れ物があったわ。部屋に行く」

そう言って立ち上がった。私の自室はまだこの家に残されている。その隣が百合の部屋だ。
不在の百合の部屋に入るのは気が引けたが、どうしても確認しておきたいことがあった。先ほど思い出したことだ。

そっとドアを開け、百合の私室に入る。相変わらずきっちりと整理整頓された和室だ。私とは生物としての種類が違うとしか思えない。
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