妖帝と結ぶは最愛の契り
 おそらく、今まさに碧雲は美鶴のいる弘徽殿へ向かっているのだろう。
 自分の(めい)を受けた小夜たちがいる以上子が殺されてしまう事態は避けられるはずだ。
 生まれてもいないが我が子にも運命をねじ伏せる力があるようだし、美鶴が予知した未来は変えられる。
 だが、それでも碧雲が美鶴と子を害そうとしているという話を聞くだけで嵐のように感情が乱れた。

 大丈夫だと自分に言い聞かせるが、早くこの場を制して向かわねばならぬと気が焦る。

「それを聞いて俺が助けに向かわぬとでも思っているのか?」

 怒りが凍てつく視線となり藤峰を射抜く。
 藤峰はたじろぐが、自分の方が優位だと思っているのだろう。鼻を鳴らし嫌な笑みを浮かべる。

「ふ、ふん! だからこその我らだ。あちらのことが終わるまでお前を足止めしておくのが私の仕事だ」
「ほう? お前たちがこの俺を足止め出来るとでも?……舐められたものだな」

 軽く見回しただけでも数十人。族は紫宸殿を囲っている様なので百はいるかもしれない。
 こちらには時雨を含め数人の味方がいるが、普通ならばこの人数差で勝てるわけがない。
 だが、数ではないのだ。

「舐めてはおらぬ。仮にも妖帝となる妖だ、我らだけで倒せるとは思っておらぬよ。だが、碧雲様が勝ちやすいように力を削ることは出来るはずだ」

 藤峰は自分は慎重だと笑うが、何も分かっていない。

(そろそろ待つのも限界だ)

 怒りも頂点に達し逆に冷静になる。
 この愚か者たちにはしっかりと力の差を見せつける必要があるようだ。

「それを舐めているというのだ。……だがよかろう、そこまで思い上がっているのならば見せてやる。歴代最強と言われる現妖帝の力を」

 もはや抑える理由など無いだろう。

 そう判断した弧月は抑えていた妖力を解放する。
 以前美鶴に見せたときのように慎重に調整したりなどしない。
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