妖帝と結ぶは最愛の契り
「え? なっ⁉ 主上⁉」

 今まで黙って成り行きを見守っていた時雨が慌てて止めようとする。
 だが、抑える気のない弧月はそのまま妖としての本来の姿を晒した。

 狐の耳と九本の尾を持つ妖狐――鬼をも凌ぐ、九尾の姿を。

「なっ⁉ ぐぁっ!」

 その姿を目にした瞬間、その場にいた者達は皆地に伏せた。
 九尾の妖力に文字通り押しつぶされたのだ。

 弧月の体から陽炎のように揺らめくのは本来見えないはずの妖力。
 可視化出来るほどの妖力は、その強さも表していた。

「なっ⁉ こんな……これほど、とは」

 流石は高位の妖とでも言うべきか。藤峰にはこの状態でまだ話せるだけの余力があったらしい。
 だが、それもすぐに尽きる。
 ぐっと呻き、顔も地面につく。

 地に伏した全ての者どもを睥睨(へいげい)した弧月は、側でかろうじて立ち膝で耐えている時雨にこの場を託した。

「時雨、俺は美鶴の元へ行く。お前はこの者どもを捕らえろ」
「くっ……全く、人使いの荒い……」
「頼んだぞ」

 短く頼み早々に去る。
 今の状態で長居すると、時雨も使い物にならなくなってしまうだろうから。

(美鶴、今行く)

 同じ内裏の敷地内であっても、少々離れた場所にいる誰よりも愛しい存在のもとへ急いだ。
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