妖帝と結ぶは最愛の契り
(幻火ではないということかしら? それに、この御姿も……)

「弧月様は、九尾だったのですね」

 軽い驚きと共に呟く。
 九尾の妖の存在は小夜から聞いていた。
 数百年に一度現れるかどうかという希少な妖狐だと。

 そんな珍しい存在のことを詳しく話す小夜を不思議に思っていたが、弧月がそうであったからなのだなと納得した。

「ああ、そうなのだが……美鶴は大丈夫なのか? 俺の妖力に当てられてはいないか?」
「え?」
「妖力の圧によって、普通の妖でも立っていられなくなる。人間なら気を失ってもおかしくはないのだが……」

 何故だ? と不思議そうに問われた。

 弧月の言っていることがよく分からない。
 確かによく見ると、弧月の体からは陽炎のように何かが溢れ出しているのが見えた。だが、気を失うような圧など感じない。

 大袈裟ではないかと周囲を見回すと、小夜が床に突っ伏すように倒れているのが見える。
 灯と香も「むきゅう……」と目を回していた。

「うっ、このっ……」

 苦し気に呻く碧雲は、床に突っ伏すことはなくともまともに立ってはいられない様子で……。
 何故? と疑問に思うが、一つ思い当たることがあった。

(私の異能は、弧月様の妖力で番の印として与えられたもの……)

 ならばこの身の内に弧月の妖力と同じものがあるということだろう。
 今九尾となった弧月の妖力に当てられずに済んでいるのはそのせいかもしれないと思った。
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