妖帝と結ぶは最愛の契り
「まあ、なんにせよ美鶴が大丈夫なら問題ない。早々にこの場を収めてしまおう」

 良かった、と安堵した弧月は優しく美鶴を見ていた紅玉の目をすっと細め、怜悧な眼差しを碧雲に向ける。

「さて碧雲。その様子ではまともに戦うことも出来ぬと思うが?」
「こ、げつ……お前、その姿は……」

 弧月の問いかけに、しかし碧雲はただ驚愕の色を見せる。

「ああ、東宮と定められ内裏に入ってからは本来の力を出すことはなかったからな……だが、見ての通りだ」
「くっ……九尾か。だが、所詮は狐だ……鬼こそが、最強なのだ!」

 弧月を映す金の目に燃え盛る炎を宿し、碧雲は足に力を入れ真っ直ぐに立つ。
 風もないのにざわりと藍色の髪が揺れ、額から二本の角が生える。
 そこには、怒りに燃えた鬼がいた。

「……俺の妖力に対抗出来るのは流石ではある。だが、忘れてはいないか? 俺が鬼の血も引いているということを」
「それがなんだ! 鬼の血を引いていようと狐であることに変わりはない。幻火しか扱えぬ狐に鬼の炎が劣るわけがなかろう!」

 叫び、碧雲はその手の平に赤い炎を出現させる。
 その揺らめきは大門の火事を思い起こさせ、美鶴は知らず身震いした。
 だが、その恐怖も弧月の手が払ってくれる。
 片手で優しく髪を撫で、安らぎを与えてくれた。

 敵である碧雲と対峙している最中(さなか)でも自分を気遣ってくれる弧月に、胸の奥が温かくなる。
 このぬくもりこそが自分の幸せ。
 やはり、弧月無くして自分の幸せはあり得ないのだと美鶴は再び思った。
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