妖帝と結ぶは最愛の契り
(どうして? 予知は、変えられないのではないの?)

「予知? そなた、何を言って――」

 瞳に映した彼の紅玉の目が困惑に彩られる。

「弧月様!」

 だが、最後まで言葉を発する前に第三者の声が響いた。

「一人で行動なさらないでください! あなたは妖帝なのですよ⁉」
「っ⁉」

 青みがかった黒髪と珍しい金の目を持つ、こちらも上質な狩衣姿の男が叫びながら近付いて来る。
 妖帝。その呼び名に美鶴は更なる驚きを受けた。
 身なりから公卿(くぎょう)と言えるほどに位の高い公家なのだろうとは思っていたが、まさか帝とは流石に思わないだろう。

「よ、ようて……?」

 驚きすぎて繰り返す言葉さえ途中で切れる。
 そんな美鶴の頭に弧月と呼ばれた男はぽん、と軽く手を乗せた。
 大きな手が頭を包むように乗り、えも言われぬ安心感とむず(がゆ)さを覚える。

「声が大きいぞ時雨(しぐれ)。一応お忍びなのだからな」
「そう思うのなら一人で突っ走らないでください!」

 悲鳴のように叫ぶ時雨と呼ばれた男は、すぐに美鶴の存在に気付いた。

「その娘を助けるために飛び出したのですか?」
「ああ。民を守るのは帝として当然の事だろう?」

 何も特別な事などしていないという風に話す弧月は、美鶴の頭の上に乗せた手をぽんぽんと動かす。

(何、かしら? 何だか、面映(おもはゆ)い……)

 その手の動きは遊ばれている様にも思えるのに、美鶴はどうしてか照れ臭い気分になった。
< 22 / 144 >

この作品をシェア

pagetop