妖帝と結ぶは最愛の契り
「否定はしませんがね。貴方の場合は人を使って民を守る立場なのですよ?」

 お小言の様な時雨の言葉に、弧月は「固いことを言うな」と笑う。

「それより、消火の方はどうなっている? 被害は?」
「見ての通り消火真っ最中ですよ。建物被害は結構なものになるかと。人的被害は抑えられているはずです。……まあ、怪我人くらいはいると思いますが」
「そうか」

 二人の男の会話にはっとする。
 そうだ。今ここは火事の真っ只中のはずだ。
 あまりの驚きのため忘れていたが、この様に落ち着いて会話などしている場合ではないはずだ。
 だが、先程まで感じていた熱気はなくなっている。
 周囲を見回すと先程までうねっていた炎はなりをひそめ、残り火がパチパチと音を立てるのみ。

(いつのまに⁉︎)

 驚く反面、これも妖の力なのかとどこか納得もした。
 どうやって火を抑えているのか分からないが、見つめている残り火も徐々に消えていくのが見える。
 その様子をぼうっと眺めていると不意に視界が揺らいだ。

(あ……予知だ)

 慣れた感覚に今から予知を視るのだと分かる。
 予知は夢見のときもあるが、こうして日中白昼夢の様に視ることも多い。
 視界がぼやけて、頭の中に直接その出来事が流れ始める。
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