妖帝と結ぶは最愛の契り
 無数の糸を使って抑え込んでいる想い。どれか一本でも切れてしまえば、怒涛の勢いで溢れてしまう。
 だが、溢れてしまっては二度と抑え込むことは出来ない。
 だから美鶴を守るためにも溢れさせるわけにはいかないのだ。

(……美鶴が妻としての本来の役割をこなせるのであれば、想いを溢れさせて堂々と守ってやれるのだが……)

 自分は相当こじらせてしまっているのだろうか。あり得ぬ未来を夢想してしまう。
 美鶴に限らず、自分の妻として本来の役割をこなせる者はいないというのに。

 そんなことを思っていたからだろうか。
 小夜からの密やかな知らせを幻聴ではないかと疑ってしまった。そのような都合のいいことがあるのだろうか、と。

 風に言の葉を乗せて伝達する小夜の力。
 その力が『主上』と呼びかけてきた。
 一方通行の伝達なため、口を閉じ耳を澄ませる。
 続いた言の葉は、想いを抑え込んでいた糸を断ち切ってしまうのに十分すぎるほどの力を持っていた。

『美鶴様が、主上のお子を身籠りました』
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