妖帝と結ぶは最愛の契り
 身に余る事態にふぅ、とため息を吐くと、丁度(ひさし)の方から大きめの足音が聞こえて来た。
 上品な足取りだが、急いでいるのか音がはっきりと聞こえる。静かな夜の中では尚更だ。
 力強い足音は男性のものだろう。それが二つこの宣耀殿へ向かってきている。

「美鶴っ!」

 訪ねる声もなく御簾が上げられ現れたのは、三か月ぶりに目にする妖帝・弧月だった。

「……しゅ、じょう?」

 小夜が知らせたと言っていたので、時雨辺りが詳しい話を聞きに来るのではないかとは思っていた。
 だが、弧月自ら来るとは思わないだろう。
 美鶴は相も変わらず美しい主を驚きの眼差しで見つめた。

「美鶴、子が出来たと聞いた」

 突然現れたことを詫びるでもなく、すぐさま美鶴の側に寄った弧月が問うてくる。
 その問いに、まだ実感できていない美鶴はすぐに答えることが出来なかった。
 迷惑になるのではないか。望まれていないのではないか。
 そんな思いもあって、言葉が出ない。

 だが、黙っているわけにもいかないだろう。
 美鶴は勇気を振り絞り、こくんと頭を小さく縦に振った。

「っ! ああ、美鶴っ!」
「っ⁉ え?」

 途端、抱きしめられた。
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