妖帝と結ぶは最愛の契り
 あの夜以来の抱擁に、瞬時に美鶴の頬が朱に染まる。
 自分以外の体温を感じ、どきどきと鼓動が早まった。

「信じられぬが、俺の子が出来たのだな……ああ、何と言うべきか……とにかく、嬉しく思う」
「うれ、しく?」

 耳元で聞こえた言葉が信じられず、思わず繰り返すように呟く。

(嬉しく思うとおっしゃった? ご迷惑ではないの?)

 戸惑う美鶴の顔を見て、弧月は抱く腕を緩めた。

「嬉しいに決まっている。俺の子など、諦めていたのだぞ? しかもそなたが身籠ってくれるとは……」

 そうして感極まったようにまた強い抱擁となる。
 その力の強さから喜びが伝わってきて、美鶴は安堵した。
 少なくとも嫌がられてはいないのだと分かったから。
 だが……。

「……ですが、ご迷惑にはなりませんか? 主上とは……その、一夜だけですし……主上の御子ではないのではないかと騒ぐ者もいるのでは?」

 弧月以外とそのようなことはしていないので他の者の子ということはあり得ないが、何も知らぬ者からすれば疑問に思ってもおかしくはない。
 ただでさえ自分は平民である人間なのだ。ここぞとばかりに非難の声を上げる者がいるかもしれない。
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