姐さんって、呼ばないで


「何か、分かった?」
「はい。若が指示した組はどこも動いてる形跡が見当たりません」
「……そうか」

桐生組の傘下でない他組をテカに探らせていたが、はやり親父に楯突こうとする組は今のところ見当たらない。

「それどころか昨日の二人、姿を消したのが、うちのシマの中っすよ」
「……そうか」
「兄貴、思い当たる奴がいるんすか?」
「……いや、まだ確信を持ってるわけじゃねぇ」

世の中、カタギとヤクザ以外にも、そのどちらにも属さないような人間がいる。
金さえあれば、違法なことと分かっていても手を下し、カタギの面してのうのうと生きようとする腐り切った人間が。
そんな奴らにうちの組の者が関係してるとなると、少し厄介だ。

放課後。
迎えに来た組の車に鉄と共に乗り込む。

「兄貴、よかったんすか?」
「何が」
「姐さんとデートしなくって」
「っ……」
「俺はてっきり……(ゴンッ)痛っってぇッ」
「お前はいつも一言余計なんだよっ」

鉄に拳を見舞った仁。
昨夜、小春が記憶を取り戻したことを鉄だけには伝えたからだ。

「今日は誰が付いてるんだ」
(けん)(はる)っす」
「あいつらなら大丈夫か」

送りつけられて来た紙爆弾。
暗号と思われる単語が何を表しているのか、何となく分かっている。
何かを要求して来る素振りがないところを見ると、はやり俺に対しての警告のようなもの。
だからといって、小春に危害を加えない保障はない。
実際、あの事故の少し前、小春の様子がおかしかったのは事実だから。

昨日は記憶を思い出した直後ということもあって、詳しく聞いたりできなかった。
けれど、記憶を思い出したのだから、少なからず小春から何か言って来そうなものだ。

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