姐さんって、呼ばないで
消したい記憶、白い薔薇

記憶が戻った翌日。
両親と詠ちゃんにも記憶が戻ったことを話した。
と言っても、記憶が戻ったから全てが元通りというわけではない。

詠ちゃんは何でも話せる親友だけど、そんな彼女にも話してないことがある。

「ねぇ、小春~。今日、仁さんと一緒に帰るんでしょ?」

三限目の体育を終え、更衣室で着替え中。
記憶を取り戻したから、当然のようにラブラブだと思っていて、いつも一緒に帰っている彼女は私に気を遣い始めた。

「ううん、一緒に帰らないよ」
「え~、なんで~?」
「仁くん、お仕事あるし」
「あ~、……そうだね」
「だから、これからも詠ちゃんと一緒に帰るから」
「わぁっ、やったぁーッ!小春を独り占めぇ~♪」
「んっ……詠ちゃん、服着て、服っ!それに下着姿で抱きつかないでってばっ」
「えぇ~っ、いいじゃん!これくらいの特権、日々のロイヤルガードで帳消しでしょ♪」
「っんもうッ!」

なぜ彼女に好かれているのか、未だによく分からないけど。
でも、極道の彼と付き合ってると話しても、こうして何一つ変わらず私を見てくれている。
そんな詠ちゃんが私も大好き。

「えっ?!な、なにっ……どうした?」
「……大好き♪」

ブラウスのボタンを留めている彼女にぎゅっと抱きついた。
普段はこんなことしないんだけど。
昨日の今日だからなのかな。
毎日そばで見守ってくれた彼女に『ありがとう』の気持ちを伝えたくて。

「よーし、あんなイカれた男じゃなくて、私と付き合いな!毎日可愛がってあ・げ・る☆」
「……いや、遠慮しとく」
「えー、なんでよ~~っ、自分が男だったらなぁ~」

こんな風に、毎日が平凡だったらいいのにな。

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