姐さんって、呼ばないで
若頭と姐さん、二人羽織り

「俺の前に立つんじゃねぇッ」
「しょうがないじゃないですかっ、俺、じゃんけんで負けて兄貴をマークしないとならないんですよ」
「んなことは知らねーよ」
「ここはっ、正々堂々と行きましょう」
「正々堂々…ねぇ」

二月下旬。
北風が強い日の体育の授業。

男子は校庭で試合形式のサッカーをしていて、仁とは別の組み合わせの岡田が、仁の威圧感に半泣きで立っている。

「岡田っ!!」
「はいっ」

岡田と同じチームの鉄が、岡田の左三メートルほど手前のところにボールを送る。
岡田はすかさずそのボールを取りに走り出した。
が、一瞬早かった仁がボールに辿り着いた。

「俺からボール奪えた奴っ、購買のバナナプリン手に入れてやるからっ、身ぐるみ剥ぐ勢いで取りに来ーいッ!」
「えっ、バナナプリンッ?!!」
「うおぉっ、俺食ったことなーいッ!!」
「食いっってぇぇえぇっっ!!」

体育はC組とD組の合同授業。
女子は体育館でバスケをしていて、男子は校庭でサッカーなのだ。
だから、球技大会の戦利品で食べたことのあるC組男子は別として、D組男子はまたとない絶好のチャンス。
この機会を逃したら、卒業まで食べれないかもしれないと思った子たちが、一斉に仁へと駆け出した。

「染野っ」
「っっ…」

仁は襲い掛かって来るディフェンスを上手くかわし、同じチームの染野(クラス委員長)にパスを出す。

「わっ、セコッ」
「ちょろいな、サッカーは一人でするもんじゃねーだろ」

自分に敵を誘き寄せ、手薄になった味方にパスしてゴール前に一気に駆け込む。

「寄こせッ」
「……桐生さんっ」

仁のシュートが見事に決まり、先制点ゲット。

「兄貴、次は負けないっすよ?」
「いい面構えだ」
「プリンの約束、反故は無しですよ?」
「あぁ、男に二言は()ぇよ」

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