姐さんって、呼ばないで

「そう言えば、さっき(やす)と何を話してたんだ?」
「やす……さん?」
「あっ、そうだったな。安と言われても鉄以外分からないよな。赤い髪の奴がいただろ」
「……あぁ、はい。彼が安さんって言うんですね」
「ん、安広(やすひろ)だから、安」
「安広さんですね、覚えておきます」
「で?何の話を?」

もしかして、嫉妬?
詠ちゃんが言ってたもんね。
独占欲が強めだって。

「特別変わったことは何も話してないですよ?」
「だから、どんな話?」
「……」

やっぱり食い下がって来る。
そんなに気になるのかな。
それとも、他の男性と話してるのが気に入らないとか?

「気になります?」
「あ?」
「私が他の男の人と話してるのが」
「っ……、べ、別に」

やっぱりそうだ。
そっぽを向いてしまったけれど、照れているのが見て取れる。

「『相変わらず可愛いですね』って言われました。まぁ、社交辞令でしょうけど」
「はぁぁああっ?!!」
「そ、そんなに驚くことじゃ…」
「っざけた真似しやがってッ!海に沈めるか」
「えええっ」

バキバキッと指を鳴らし、一瞬で目がすわった。
やはり、極道の人だ。
『海に沈める』って、普通嫉妬しても、そういう発想にはならないでしょ。

豹変する彼には驚くけれど、でもちょっぴり嬉しい。
こんな風に一途に想われたら、嫌な気分になるはずがない。

「そろそろ時間だな」
「へ?」
「遅くならないうちに送ってく」

スマホを見ると、二十二時になろうとしている。
やっと少し距離が近づけた気がしたのに、ちょっと名残惜しいような。

「また、来てもいいですか?」
「ッ?!……もちろん、いいよ」

私の言葉が意外だったのか。
はにかんだ顔にきゅんとしてしまった。

< 33 / 152 >

この作品をシェア

pagetop