姐さんって、呼ばないで
傘と猫、記憶の欠片

六月の上旬。
五月中旬に行われた中間試験で、圧巻の学年一位になった仁。
教室の中に張り出された成績表。
見事にぶっちぎりの点数に、それまで『極道で近づき難くぶっ飛んだ人』というイメージから、『何でもデキるオーラのある人』に上書きされた。
更には『イケメンでミステリアス』という要素も加わり、少しずつ仁の人気が高まり始めた。

「いいの~?」
「ん?……何が?」
「彼氏が浮気してるよ?」
「うわっ……違うから」

休み時間に詠ちゃんとベランダで過ごしていると、仁さんの周りを何人かの女子が取り囲んでいる。
『勉強教えて下さい』だとか『お昼一緒に食べませんか?』などと声をかけているみたい。

(わり)っ、小春以外、女に見えねー、マジで無理」
「はっ?」
「私、遊びでも全然大丈夫~♪」
「ウザッ……消えろ」
「おい、兄貴を困らせるような真似すんなら、女でも容赦しねぇぞ」

バキバキっと指を鳴らす鉄。
小春の視線を感じ、仁に耳打ちする。

(兄貴、姐さんがこっち見てるっす)

「こいつらはお前に任せた」
「うっす」

仁は席を立ち、小春がいるベランダへと。

「小春」
「私ちょっと、お手洗いに行って来るね」
「えっ、あ…」

詠ちゃんが気を利かせてくれた。
どうしよう。
話すことなんて何もないのに……。

教室の中からの視線を感じ、無意識に南校舎の方へと視線を逸らした。
すると……。

「俺には小春だけだから」
「………?」

背後にあった気配がなくなり、足下から声が聞こえて来た。
すかさず振り返ると、腰高窓の壁に隠れるようにしゃがみ込んだ彼がにこっと笑顔を向ける。

「やっと目が合った」

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