姐さんって、呼ばないで


放課後の教室。
次々と下校するクラスメイトを横目に見ながら、帰り支度をする仁さんの元へ。

「あの…」
「……おぅ」
「先生に呼ばれたので、職員室に行って来ます」
「……呼ばれた?」
「姐さん、なんかしたんすか?」
「あ、ううん、そういうんじゃなくて。この高校の健康診断の医療機関がうちの両親がやってる病院だから、たぶんそれの書類を預かるだけだと思います」
「…あぁ」
「先に帰ってて下さい。終わり次第、行きますので」
「待ってる」
「え?」
「玄関で待ってるから、行ってこい」
「……はい」

今日は放課後に仁さんの自宅へと行くことになっていて、詠ちゃんとは別々に帰ることにしている。

職員室に行くと、四月に行われた健診の書類と、秋以降に行われる日程が綴られた書類を預かった。
職員室を後にし、玄関へと向かう。

今日は昼過ぎから雨が降り出し、梅雨の走りなのかな?と思うほど、少し肌寒く感じる。

下駄箱前に到着してみたが、仁さんと鉄二さんの姿はない。
待ちきれなくて帰っちゃったのかな……。

下足に履き替え、鞄の中からスマホを取り出す。
けれど、『先に帰る』という類のメールは来ていない。

「ま、いっか」

折り畳み傘を鞄から取り出し、玄関を出た、その時。
自動販売機横の花壇の前に、しゃがみ込んでる彼を見つけた。

雨に濡れたトラ猫に傘を差している。
その横顔は凄く穏やかで、彼が極道の人だとは微塵も感じさせないくらい優しい表情だ。

――この光景、どこかで見た記憶が。

何だろう、胸がキュッと抓まれたみたいな。

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