姐さんって、呼ばないで

悪戯が成功したみたいなしたり顔をしながら、スッと差し出される手。

「ん」
「……っっ」

ここは学校で、教室内にいるクラスメイトがじーっと見ているってのに。
彼は甘えるみたいに手を握ってと態度で示して来る。

でも、どうしてだろう。
嫌だとは思えない。

『許婚』だと擦りこまれているからなのか。
いつでも私には紳士的だからなのか。
彼の差し出された手を掴んでもいいかな、だなんて思ってしまった。

恥ずかしくてまじまじと見れないけれど。
窓下の壁に隠れてる彼の横に立つようにして、クラスメイトの視線から逃れ、そっと彼の手を掴んだ。

私より僅かに高い体温。
あちこちにマメみたいなものができていて、ごつごつとした感触。

「小春、今度いつ来る?」
「え?……あっ」

GWにお邪魔して以来、彼の家に行ってない。
いつも詠ちゃんと登下校していて、彼は鉄二さんと登下校している。
というより、彼は学校が終わると、家業である不動産と建設業の仕事をしているらしい。
『夜遅くまで仕事をしている』と鉄二さんから聞いている。
なのに、学年一位。
本当に勉強ができる人なんだなぁと思った。

「呼んで下されば、いつでも」
「えっ……マジで?」
「……はい」
「じゃあ、今日」
「え、お仕事は?」
「仕事なんてどうにでもなる」
「無理しなくて大丈夫ですよ」
「無理なんかじゃねーよ。ってか、小春は最優先事項だろ」
「っっ……」

にかっと無邪気に笑う彼。
私の承諾が嬉しかったのか、ぎゅっと手を握り返して来た。

< 35 / 152 >

この作品をシェア

pagetop