姐さんって、呼ばないで
コンコンコン。
「兄貴、すいやせん」
「ん、どうした」
「夕食の準備ができやした」
「分かった、先に行っててくれ」
「へい」
ドア越しで鉄さんが声をかけて来た。
「食事の用意ができたようだ。家に連絡を入れておくな」
「あ、……はい」
勉強道具を片付けながらスマホを確認すると、既に十八時半を回っている。
仁さんは私の母親に電話をかける。
「……はい、……はい、分かりました」
「大丈夫でした?」
「あぁ、もちろん」
親同士が仲がいいのだから、当然のように私の両親とも面識があって、当たり前のように会話する。
頭では分かっているのに、実際にその現場を見ると、少し不思議な感覚。
仁さんの教え方は凄く分かりやすくて、言わなくても私が分からないところがまるで分かってるみたいで。
数学だけじゃなく、英語や古文も教わってしまった。
鞄に勉強道具を詰め終え、立ち上がろうとした、その時。
「きゃっ……んっ……??」
夢中で勉強していて、足が痺れているのに気づかなく、立ち上がろうとした際に体勢を崩してしまった。
倒れ込んで痛いはずの体が、なぜか痛くない。
恐る恐る目を開けると、倒れ込んだはずの私の体を仁さんが受け止めてくれていた。
「………え、……んッ」
一瞬、同じような光景が脳裏を過った。
パジャマ姿の私と彼。
羽毛が入った枕をブンブンと振り回したのか、部屋のあちこちに羽が飛び出ていて。
なぜか私は泣きながら、今と同じ体勢で泣いている。
デジャヴ?
それとも、記憶の断片??
「小春?……どこか痛めたか?」
「……」
心配そうに見つめる瞳。
この瞳にも覚えが……。