姐さんって、呼ばないで

大所帯だからなのか、台所は二十畳くらいあってかなり広い。
その一角で、大柄な組員が手打ちうどんを作っていた。

「うちは男手が多いから、あーいう作業はあの子らに任せておけばいいのよ」
「……なるほど」
「姐さん、エビの下処理終わりました」
「ありがとう。そこに置いといてちょーだい」
「へい」

既にイカが捌かれていて、エビまで下処理が終わったらしい。
私にできることは揚げることくらい?

「代わります」
「あっ、こっちは大丈夫よ。油がはねたら大変だから、机を拭いて器を出して貰えるかしら」
「……はい」

ガスコンロは業務用のもので、五口もある。
そこでお母様と少し年配の男性が手際よく次々と揚げている。

「仁悪いんだけど、あの人を起こして来てくれる?」
「あ~、ん」

『あの人』
聞かなくても分かる。
桐生組の組長で、仁さんのお父様だ。

**

「小春ちゃん、久しぶりだね」
「……お邪魔してます。それと、……暫くお世話になります」
「そんな畏まらずともいいんだよ、自分の家だと思ってくれれば」

大広間に並べられた座卓の上には、ついさっき出来上がったばかりの天ぷらうどんの他に、煮物や和え物が入った小鉢まで置かれている。

「一度しか言わないから、皆よく聞け。今日から暫く小春ちゃんがうちで生活する。困ったことが起らぬよう、気遣ってやれ、いいな」
「「「「「はい」」」」」

お腹に響くような低い声。

「はーい。話はその辺にして、伸びないうちに」
「じゃあ、戴くとするか」
「「「「「いただきます」」」」」

一糸乱れぬとはこういうことを言うのかもしれない。
気持ちいいくらいに重なる声に、思わず聴き惚れてしまった。

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