姐さんって、呼ばないで


「いらっしゃい」
「姐さん」
「こんにちは、暫くお世話になります」

自宅に組の人が迎えに来てくれ、お昼前には桐生家に到着した。

「荷物はこれだけ?」
「足りなかったら、取りに行けばいいかと思って」
「……そうだな」
「仕事は?今日はお休みなんですか?」
「小春は気にしなくていいんだよ」
「そうっすよ。兄貴は姐さん、最優先っすから」
「お前は一言余分なんだよっ」
「っ……すいやせん」

夫婦漫才のような仁さんと鉄さんのやり取りに、緊張気味だった私はほんの少し気が紛れた気がした。

「荷物は部屋に運んでおきやす」
「あっ、……ありがとうございます」

鉄さんは運転して来てくれた組員の人からキャリーケースを受け取り、会釈した。

「今、母さんが昼ご飯の用意してて」
「え、じゃあ私、手伝いますっ!」
「言うと思った」
「へ?」
「うちに来ると、いつも母さんと何かしら作ってたから」
「ッ?!そうなんですか?」
「あぁ」

消えている過去を手繰り寄せるみたいで、少し変な感じがする。

料理は上手じゃないけれど、作るのは結構好き。
もしかしたら、彼のために必死に教わって作っていたのかもしれない。

仁さんの後を追って台所に行くと、何やら大柄の男の人が数人息を切らしている。

「母さん、小春が手伝うって」
「あっ、小春ちゃん、いらっしゃい♪今、天ぷら揚げてるの」
「手伝います!」
「わぁ、嬉しい♪」
「天ぷらうどんなんですね」
「えぇ。小春ちゃん、うどん好きでしょ?」
「ッ?!……はいっ」

仁さんも仁さんのお母様も、私がうどん好きなのを知っている。
当たり前なんだろうけど、そんな些細なことが凄く嬉しい。

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