姐さんって、呼ばないで
思い出せない記憶を辿ることもできず。
気分的にプレゼントを選ぶこともできず。
結局、そのまま帰って来てしまった。
夕食後、後片付けをする母親に声をかける。
「ママ」
「ん?」
「私のネックレス、知らない?」
「……ネックレス?」
「ゴールドチェーンにピンクのダイヤが付いてるやつ」
「……思い出したの?」
「ううん。今日詠ちゃんたちと買い物してて、ふとそんな話になったから」
「……そう」
父親は臨床学会の仕事で名古屋に行っていて不在。
父親がいたら声掛けるタイミングを考えたかもしれないが、どうしても後回しにしたくなかった。
うじうじ悩むことも、隠されることも嫌いな性格。
騙されているのではないとしても、事実を隠されるのは嫌だから。
「ちょっと待ってなさい」
キッチンを後にした母親は、父親の書斎へと。
戻って来たその手には、ハンカチに包まれたネックレスが。
「切れちゃってるんだね」
「えぇ。……事故の時にしてたみたいで、車の中に落ちてたの」
ハンカチに血が付いていて、事故で怪我をしたのだと分かる。
「これ、直せる?」
「頼めば直ると思うわ」
「……じゃあ、直して貰いたい。お金はお小遣いから差し引いてもいいから」
「分かったわ。後で頼んでおく」
「ありがと、ママ。それと、他にも仁さんから貰ったものがあるって聞いたんだけど、どこにあるの?」
「……ママが持ってるわ。待ってなさい、今持って来るわ」
戸惑う表情を浮かべた母親は、手のひらサイズのジュエリーボックスを手にして戻って来た。