修学旅行からはじまる恋の話
乗った電車は通勤ラッシュの時間帯を過ぎているというのに、満員だった。
「飛香、大丈夫?」
サラリーマンのおじさん越しに会話する私とやっちゃん。
おじさんは痴漢と間違われないようにするためか、両手で吊り革を掴んでいる。
「大丈夫!やっちゃんは?」
「私もなんとか、」
と、顔も見えないやっちゃんと話していたら何だか可笑しくなってきて、クスクスと笑っていると「静かにして」と隣にいた菱田くんに注意されてしまった。
目的の駅までは15分。
こんなに人が多くて、息苦しいと、時間がより長く感じてしまう。
ガタンゴトンという定期的なリズムが心地よくなりうとうとし始めた頃、何を言っているか分からないアナウンスが流れたと思ったら急に背後の扉がプシューと音を立てて開いた。
「えっ…わ、」
電車から降りる人たちに押されて、一歩また一歩と外にかき出されていく。
1番近くにいた菱田くんと、目が合う。
「ひ、ひし、だくんっ…」
「おい、宮原…」
あ、めずらしく菱田くんが名前で呼んでくれた…なんて思っていたら発車のベルの音がホームに響く。
トドメと言わんばかりにサラリーマンのおじさんの肩が私にぶつかって、私はそのまま尻もちをついた。
電車には、まるで漫画のように人がまた詰め込まれていく。
「ま…待って」
伸ばした手のひらの指の隙間から、虚しく扉が閉まるのが見えた。
ゆっくりと進行方向へ進んでいく電車。
呆然と見送る私に、「くくっ、だっせぇ」と聞き慣れた声で笑ったのは、菱田くんだった。