別れが訪れるその日まで【番外編】

紫苑君をご紹介

私、鈴代芹には秘密がある。
それは三年前に交通事故で亡くなった双子の姉、奈沙お姉ちゃんの幽霊にとり憑かれてるってこと。

といっても、夜な夜な『うらめしや〜』って言って化けて出たり、呪いをかけられたりするような物騒な憑かれ方じゃない。
常に私の側にいて、生きてる時と変わらない態度で接してくるんだよね。
例えば今だって……。

「ねえ芹ー、テレビのチャンネル変えてー。アニメ見たいアニメー』

日曜日の朝、我が家のリビング。
私の横でソファーに座りながらチャンネルを変えるようにせがんでくる、奈沙お姉ちゃん。
お姉ちゃんは幽霊だから、テレビのリモコンを持つことができなくて、自分ではチャンネルを変えられないんだよね。

もう、しょうがないなー。
言われた通りチャンネルを変えると、映し出されたアニメを熱心に観はじめる。

こうしていると、生きてる人間と何も変わらないみたいに思える。
だけど三年前に亡くなった時のまま、お姉ちゃんは全く成長していないし、私以外の人は姿を見ることができない、声を聞くこともできないの。

あ、でも実はもう一人……というか、もう一匹お姉ちゃんの姿を見ることができる子がいるか。

「ニャ~ン」
『お、ボタも一緒に観るー?』
「ミャッ、ミャッ!」

お姉ちゃんの声に答えるようにとなりで丸くなったのは、うちで飼っている黒猫のボタ。
どうやらボタもお姉ちゃんのことが見えるし、声も聞こえるみたいなの。

ふたりはしばらく一緒にアニメを観ていたけど、番組が終わるとそろって『う~ん』と背伸びをする。

「あー、面白かった。ところで芹、紫苑君がうちにくるのって、いつ頃だっけ?」
「午後だよ。お昼を食べてから来るって言ってた」
『ふふふ~、楽しみだねえ〜。何せカレカノになってから初の、お家デートだものねぇ』
「お、おおお、お家デート!?」

お姉ちゃんの言葉に、ゲホゲホとむせる。
危ない。もしも飲み物飲んでたら、吹き出しちゃってたかも。

紫苑君は、私とお姉ちゃんの幼馴染みの男の子。
お家の都合で引っ越しちゃったんだけど少し前にこっちに戻ってきて、今では私の……か、彼氏なの。

私はずっと前から紫苑君のことが好きで、ちょっと前にお付き合いすることになったんだけど、今日はそんな彼がうちに来るの。

子供の頃は何度もお互いの家を行き来していて、こっちに帰ってきてからも一度うちに招待したことはあるんだけど、付き合い出してから家に呼ぶのは初めて。
意識しちゃうと、なんだか変にドキドキしちゃうのに、お姉ちゃんってば『お家デート』なんて言うんだもの。
ますます意識しちゃうよ~。
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