いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
 今日の体育はサッカーで、チームを組んでの対抗試合が行われた。チームを組むとき、運動が苦手な西田は、いつも余りモノになってしまう。対して、新島悠真や篠原咲乃はどのチームにも引っ張りだこだ。二人とも、体力テストで好成績を上げていたから、彼らがいれば勝てると期待されているのだ。

 悠真はいつも通り、日下や小林達のいるチームに入るようだった。あの連中はいつも仲良く連んでいる。

「篠原、俺たちと組もうぜ」

 篠原咲乃は悠真たちと組むようだ。女子達がキャーキャーうるさい。最近女子の間では、新島悠真と篠原咲乃の組み合わせが人気らしい。二人とも見た目だけは良いから、一緒にいるだけで見栄えするのだろう。

「西田、お前こっちのチームかよ……」

 同じチームになった石淵が、残念そうに言った。

「足手まといになんなよな」

 西田が入った試合は、予想されていた通り悲惨なものだった。
 西田が何とかチームに貢献しようと頑張ろうとするが思うようにいかず、ファールボールまで出してチームの足を引っ張ってしまったのだ。チームメイトたちは苛立ち、西田に舌打ちし、最終的に「邪魔だからなにもすんな!」と怒鳴られてしまった。

「今日の対戦チーム、超ちょろいじゃん。本当にやる気あんのかよ」

 相手チームのリーダーが、人懐っこい顔に呆れた表情を浮かべた。

「神谷、口が悪い」

 外野で観戦していた篠原が嗜めると、相手チームのリーダーは「挑発も戦術のうちだって」と余裕そうな顔で笑った。
 結局試合は相手チームのリーダーの指示が的確で、うまくチームメイトを鼓舞しチームワークを高めていたせいもあり、西田のチームは負けてしまった。

 体育の授業が終わると、西田は重い足取りで水飲み場へと向かった。水飲み場では、先ほど一緒に組んでいたチームメイトの石淵たちが水を飲んでいた。列が空き、西田が蛇口をひねる。
 突然、冷たいものが顔の横に飛んできて、西田の右頬を濡らした。予想外の冷たさに、心臓が飛び上がる。一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 水滴が顔からしたたり落ちた。耳の中に水が入ったのか、石淵たちのゲラゲラ笑う声が歪んで聞こえる。石淵の手には、蛇口に繋がれたホースがあった。
 西田は何も言わず、逃げるようにその場を立ち去った。びしょ濡れになって肌に貼りつく体操着の感触が不快だった。

 制服に着替えた後、席に座りちえちゃんの頬をつつきながら時間をつぶす。西田の心のよりどころは、いつだってちえちゃんだけだ。癒しのちえちゃんとの時間を満喫していると、目の前で何か差し出された。驚いて目の前のものを凝視する。コンビニで販売されている、アーモンドチョコレートの箱だった。

「お疲れ様。良かったらどう?」

 驚いて目の前の人物を見上げると、柔らかい笑顔を向けられた。

「ど……どうも……」

 差し出されるままに、チョコレートをひとつつまむ。篠原は穏やかに笑って、悠真たちの元へ戻って行った。

 クラスの中でもとりわけ地味で存在感のない自分にまで、差し入れをするなんて。ただ、良い人ぶっているところを周囲に見せたいだけなのか、まさか、変な物が入っていたりしないよな。
 篠原咲乃の行動の意図が分からず、西田はしばらく、もらったチョコレートを食べられずに眺めていた。




 篠原咲乃には時々声を掛けられる。何の目的があって声をかけているのかわからない。まさか、クラスになじめていない自分を、気にしている、なんてことはないだろうが……。しかし思えば、あの時は、篠原咲乃に助けられたような気がする。

 あれは学級活動の時間だった。担任が「学級委員を決める」と言ったとたん、教室内が嫌そうな反応をした。

 学級委員はクラスをまとめたり担任の雑務を手伝ったり、クラスの話し合いの進行を任されたりと面倒な仕事が多い。そんな雑用係、誰が積極的になるだろうか。学級委員を決めるときは、大概、担任が無理やり指名するか、押し付け合うようにして決まる。

「立候補したいやついないか?」

 担任は、黒板の前に立ち教卓に手をついて教室を見回した。生徒たちは嫌そうな顔をして指名されないよう、担任から視線を逸らした。
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