いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「おーい、石淵。お前のことも書かれてるぞ。『サッカー部で一番下手くそなくせに、体育で熱くなってんのクソ寒い』ってさ」

 村上の仲間が、別のグループで喋っていた石淵に声をかける。石淵たち近づいてきて、西田のスマホ画面を覗いた。

「は? ふざけんなよ、おい」

 石淵に睨まれ、西田は絶望に顔をこわばらせた。

 村上たちが西田の投稿内容を読み上げる。西田のスマホは、男子たちに回されて格好のネタとして扱われた。今やクラスメイト全員が、遠巻きから西田達のことを見ている。

 小林が、ニヤニヤ笑みを浮かべながら西田のスマホの画面をスクロールして、わざとらしくふざけた声で言った。

「これ見ろよ。『自分面白い奴って思ってるけど何一つ喋ってる事面白くねーから。他人下げてるだけで笑いのセンスゼロ』だって。西田に言われたくないんですけどー」

 小林が内容を読み上げると、中川が横からスマホを覗き込んで楽しそうに笑っていた。

「うっわ、なにこれ『今日も加奈ちゃんめっちゃ可愛い』『このキャラ、加奈ちゃんに似てる気がw』『今月こそは加奈ちゃんの隣りになりたい』だって。きっっもッッ。澤田のストーカーかよ!」

 中川がふざけて読み上げる。顔を青ざめさせた澤田加奈と、彼女を守るように囲んで西田に敵意を向ける女子たちの視線に、西田は恥ずかしさのあまり泣きたくなった。

 現実(リアル)では言えないことを、SNSで発散するのは気持ちが良かった。鍵垢にしておけば何を書いても安全だろうと思ていたから、実名をそのまま書いてしまっていた。まさか、こんなんふうに晒されるなんて思ってもいなかった。

 呆然と女子たちに慰められる澤田加奈を眺めていると、西田の頬に強い衝撃をくらった。
 意識が飛びそうになるほどの強い打撃に、整列された机を巻き倒して後ろによろめく。すぐに制服を掴まれ、引きずられるようにして起こされた。

「人のことキメぇ目で見てんじゃねぇよ」

 今までに聞いたことの無いような、日下の腹の底から沸き起こるような怒声。再び頬を殴られ、西田は倒れた。

 腹を蹴られる鈍い痛み。口の中の唾液が喉の奥に絡みついて、激しく咳き込む。
 西田は泣きじゃくりながら何度も謝った。顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。締め切られたドアの外では、廊下や隣のクラスの生徒たちの楽しそうな声が遠くに聞こえる。

 どうして、だれも助けてくれないんだろうと思った。こんなに大きな音を立てているはずなのに。いつもなら、他クラスから遊びに来る生徒もいるはずなのに。

 日下は、短く浅い呼吸を繰り返す西田の胸倉を掴み、拳を振り上げた。

「……何すんだよ、篠原」

 日下が押し殺した声で呻く。咲乃は日下の手首を掴んだまま、視線で時計を指示した。

「そろそろ、チャイムが鳴る」

 日下が時計に目を向けると、咲乃の言う通り時刻は朝礼が始まる頃合いになっていた。今のうちに教室の机や、泣きじゃくっている西田のことを何とかしなくては、担任の増田に見つかってしまう。

 日下は舌打ちをした後、西田から手を離し、咲乃の手を振りほどいた。床に倒れる西田は、小さくすすり泣いたまま床の上に蹲っている。
 咲乃は西田の顔を見て、目立った傷が無いことを確認した。

「過呼吸になってる。誰か袋持ってきて。保健委員、西田くんを保健室へ連れて行ってあげて。中川くんたちは机をきれいに並べ直しておく。澤田さんは大丈夫? 日下くん、きみ、今の状態で授業に出られる?」

 日下は加奈と目が合うと、強く舌打ちして何も言わずに自分の席へ戻った。

「何お前が仕切ってんだ? 偉そうに指図してんじゃねぇよ!」

 村上が詰めよると、咲乃は西田の机を元に戻して、村上に顔を向けた。

「この状況、学校や保護者に知られたい?」

「あ゛?」

 村上が威圧すると、咲乃は冷めた目で彼を睨んだ。

「手を出したのはきみたちだ。最も都合が悪いのは、きみたちなんじゃない?」

 村上は返す言葉に詰まると、近くの机を蹴り倒し自分の席へ戻った。

「はいはーい、みんな見世物は終了。早くしないと先生来ちゃうよ? 机もどして、ほら」

 今まで傍観していた悠真が両手を叩く。悠真が指示を出すと、みんなしぶしぶ荒れた机を直して、自分の席についた。
 咲乃は床に落ちた西田のカバンを拾うと、埃を払って机の横のフックにかける。

 担任が来るまでに教室はきれいに整えられ、そのまま何事もなく朝礼がすすめられた。西田は、体調不良を理由に午前中のうちに早退し、その日一日、今朝の出来事はまるでなかったように元通りになった。
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