いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「津田さんの気持ちはわかるよ。嫌がるってわかってた。でも、内申だけは考慮してもらえたらって思ったんだ。これから、津田さんが行きたいと思う高校も出てくるかもしれないし、少しでも内申点があれば、進学先の選択肢が広がるかもしれない。通信制の学校や、進学しない選択肢もあるけれど、やりたいことを諦めるようなことにだけはなってほしくなかったから」

 途中から、篠原くんの言葉なんて聞いてなかった。

 わかってない。わかってないじゃんか。簡単にわたしの気持ちがわかるなんて言わないでよ。篠原くんは、何もわかってない!

 苦しくて、胸が押しつぶされるみたい。目のまわりが熱くなって、真っ赤な熱い塊が、喉の奥からせりあがってくる。すごく悔しかった。わたしに相談もせずに、勝手に話を進めていたことも、わたしの気持ちなんて全く理解されていないことも。

「いき……たく……ない、です」

 悲しみと同時に怒りが込み上げてきて、ムカついてムカついて、今にも叫び出してしまいそう。篠原くんの顔も見たくない。顔がきれいだからって、これだけは許せない。

「ごめんね、津田さん」

 謝られても許せない。自分のことも許せなかった。いつから勝手に勘違いしたんだろう。篠原くんなら、うちの家族や先生みたいに、わたしの気持ちも考えずに安易に学校へ行けなんて言わないって。
 どっかの誰かが決めたスタンダード(・・・・・・)な道から運悪く外れてしまった人間の気持ちなんて、運よくそのままいけた人たちにはわからないのに。

「津田さん。本当は嫌なのに、勉強をしようと思ったのはなぜ?」

「……」

「津田さんが勉強を続けてくれるようになってね、嬉しかったんだ。俺のことを拒絶していた津田さんが、応えてくれたんだって分かったから。だから、俺も津田さんに応えたいと思った」

「……」

 俯いたまま、何も言えなかった。さっきまでの怒りが霧散して、気まずさと罪悪感がむくりと顔を出す。

 ……それはその……美少年(・・・)が、優しくしてくれたから……で……。

「俺、津田さんのこと、本当に尊敬しているよ。努力して苦手なことを克服するって、なかなか出来ることではないから」

 罪悪感が凄いよ、どうしよう。

 急に背中に汗が滲んだ。わたしが勉強をはじめた理由なんて、苦手なものを克服したいとかそんな清いものじゃない。篠原くんに嫌われたくないからという不純な動機からきてるんだ。そんな、健気にがんばってるみたいに言われると、こっちがだましてるみたいで申し訳ない気持ちでいっぱいだよ!!

「折角、津田さんががんばっているのに、誰も知らないままなんて、俺はいやだな」

「……っ!」

 む……胸が痛い! ち、ちがうんです。幻滅されたくないから、無理してがんばっちゃっただけなんです!

「テストの日は、全校生徒がいなくなる時間帯に頼んである。津田さんが嫌なことは何も起こらないように気を付けるし、俺も一緒に付いて行くから、だから――」

 やめて、そんなきれいな目でまっすぐわたしを見つめないで!

「テストだけでも受けてみよう、ね?」

「……ガンバリ、マス」

 言っちゃったぁ――――!

「うん、がんばろうね!」

 篠原くんのふわっと花が咲いたような笑顔を見て、わたしは自覚した。

 篠原くんの「お願い」には抗えないんだな……と。
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