いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「い、嫌がるかな……と」

「聞いてくれても良かったのに」

「そ、そうですよね……ハハハ……」

 そんなこと、聞けないよ。だって、嫌われるかもしれないじゃん。

「何でだろうと思わなかった?」

「……思ってましたけど……きっと篠原くんは、責任感の強い良い人なんだと……」

 最初の頃は何かのいたずらかと思っていたけど、最近は純粋な善意から来ているのだと思うようになった。篠原くんて、どう見ても優等生っぽいし、プリントを届けに来てくれたのも、先生の言いつけだって言ってたし。良い人だから、わたしみたいなのに関わってくれるんだって、勝手に納得していた。聞いてもいいのかわからなかったから。篠原くんに、どこまで踏み込んでいいのかわからなかった。

「津田さんが思っているほど、俺は良い人なんかじゃないよ」

「……そう、なんですか?」

「うん」

 わたしから見たら、篠原くんは充分“良い人”なんだけどな。

「津田さんを見ているとね、ある人を思い出すんだ」

「ある人?」

 篠原くんはこくりと頷いた。

「前の学校の、同じクラスの子だった人。いつも一人で、教室の隅で静かに過ごしていた。大人しくて、目立たない子だった」

「そうですか……」

 似てるって言うのは、雰囲気の話しだろうか。それとも、別の意味だろうか。

「幼い頃は、遊んだこともあったんだよ。でも、いつの間にかそんなことも無くなって、中学生になってまた、同じクラスになったんだ」

 篠原くんはうつむいていて、わたしの方からはその表情は見えなかった。

「いじめが始まったのは、そのすぐあとだった」

 息がつまるみたいな感覚に襲われて、ぎゅっと服のすそを握る。篠原くんから聞いていた、“その子”の見ていた風景が、わたしの記憶と重なった。

「後悔していることが沢山あるんだ」

 篠原くんの声は、とても静かだった。前髪から僅かに見える目はどこか遠くを見つめている。

「でも、もう謝ることも出来ない」

「……」

 お互い何も言えずに、黙り込む。息苦しいほどの重たい空気に、わたしは思い出したくもない昔のことを思い出していた。

 わたしを囲んで罵倒するいじめっ子たちに、遠巻きからみているクラスメイト達。みんな、イヤそうな顔をしてその場から離れていく。いじめを見て見ないふりをしてしまうことは、よくあることだ。誰だって、巻き込まれたくはない。

「俺が今更、何をしようと償いにならないのは分かってる。津田さんとその子は関係ないし。でも、転校先に不登校中の生徒がいると知ったとき、チャンスなのかもと思ったんだ。もしかしたら俺も、変われるかもしれないって」

 篠原くんは後悔していることをやり直すために、わたしに関わったの? 弱かった自分を、変えるために。

「そう、だったんですか……」

 篠原くんの話を、どう受け止めたらいいのかわからなかった。わたしはいじめられてきた側だから、その子の気持ちがわかる。その子だって、きっと誰かに助けてもらいたかったはずだ。でも、現実は誰も助けてはくれいない。でも正直、巻き込まれたくない気持ちもわかる。わたしが許せなかったのは、いじめを見た時の、みんなの“目”だった。
 別に、野次馬みたいに面白がるわけでも、憐れむわけでもない。ひどく迷惑そうな目が、わたしを遠巻きに見ていた。まるで、わたしのせいでクラスでいじめが起きていると言うような、いじめっこにではなく、いじめられているわたしを疎ましく思う目を向けられていたこと。それが、わたしには許せない。

「……本当は篠原くんのこと……怖いと思ってました……」

 何とか言葉を探して、言葉を絞り出す。本音を伝えるのは、怖くて怖くてたまらない。でも、これ以上はごまかしきれない。だって、篠原くんが、自分から話したくないことを話してくれたから。

「だって、篠原くんはかっこいいし、頭が良いし、やさしいし、きっといろんな人にモテて人気者だろうし……。完璧な篠原くんに比べたら、わたしなんてダメダメですから。だから……その、どうか関わったらいいのかわからなくて……」

 自分の服のすそをつかみ、とめどなくわき出る手汗をぬぐう。
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