いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「神谷、お前わざとやってるよね?」

 咲乃が呆れて言うと、神谷はにかっと笑った。

「だってアイツ超面白いじゃん?」

 しばらくはこのネタで楽しむつもりらしい。神谷に気に入られると、皆碌な目に合わない。

 病室に寄ったら成海の家へ。このルーティンを繰り返して、咲乃は日常を取り戻していった。






 主人公(ヒロイン)の存在意義について深く考察していきたい所だけど、シンプルに落ち込むので控えさせていただく。明らかにわたし、邪魔だろうなんて気付いてはいけない。だって、冷静に考えてもわたしは邪魔だからだ。

 篠原くんに不満をぶちまけてスッキリしたわたしは、ヘッドホンを装着して、ようつべに上げられているハヤトくんの朗読動画を聞いて癒されていた。
 わたしにだって休息は必要なんだ。今までだって、ずっと勉強を頑張っていたんだもん。

 ベッドの上で枕に顔をうずめる。耳元で、ハヤトくんの甘い美声が囁く。

『ずっと会いたかった。俺のお嬢様』

 わたしも会いたかったよぉ、ハヤトくん。ハヤトくんの低音ボイスは内臓まで響く、素敵なお声だ。

「津田さん、こんにちは」

『俺以外の男と話すな、嫉妬する』

 ハヤトくん以外の男と話すわけないじゃない! わたしはハヤトくんに身も心もお小遣いも全て捧げているのに!

「津田さん、寝てる?」

『悪い。見惚れてたんだ。キミがあまりにもキレイだから』

 きゃぁああ。かっこいいよぉ! 足がバタバタしちゃうよぉ!!

「……起きてはいるんだね」

『ずっと、俺の隣にいて。きみの事がす――』

「津田さん、いい加減にして」

 ヘッドホンを取られてしまった。ハヤトくんの甘々な声が駄々洩れである。

『――もう誰にも離したくない……』

「プリンあるけど、食べる?」

「……はい。……いただきます……」

 またひとつ恥ずかしい趣味を篠原くんに知られてしまった。





「あんまぁああ!」

 一個300円の濃厚プリン、スーパーの三個入りプリンと濃さが全然違う!

「津田さんが喜んでくれて良かった」

 篠原くんは頬杖をついて笑っている。久しぶりに拝めた篠原くんのご尊顔、とっても天使だ!

「それで、忙しいのは終わったんですか?」

 何で忙しかったのかは聞いてないけれど、篠原くんにもいろいろあるのだろう。学校行ってると大変だなぁ。

「うん、もう大丈夫。これからは、また一緒に勉強できるよ」

 篠原くんがほっとした顔をしてるから本当みたい。最近、なんだかピリピリしていたもんね。もしかして、そのピリピリわたしにぶつけてた? ストレス溜まると、わたしの課題の量が増えるとか、まさかそんなんじゃないよね?

「でも、神谷が怪我をして入院しているんだ。たまに病院にも寄るから遅くなる日もあるけれど、その時はごめんね」

「そんな時くらい、自分の家にまっすぐ帰ったって良いんじゃないですか?」

 そんなにびっちり勉強の予定をいれなくても、わたしはいつでも暇だから、勉強の遅れは十分取り戻せると思うんだけどな。

 最後のひと掬いのプリンを口に入れ、幸せを噛みしめた。もう無くなっちゃった。今度、お母さんに同じ商品を買ってもらおう。

「……津田さんは、俺が来るの迷惑?」

 篠原くんが、悲しげに視線を落とした。

「ち、ちがいます、ちがいます! 篠原くんが来てくれるのは有難いですけど、篠原くん、無理してでも時間取ってくれるじゃないですか! 篠原くんが倒れたらそれこそ一大事なんで、無理せずに、休むときは休んでほしいんですよ!!」

 だってほら、篠原くんって儚げだから。ぽっきり折れそうだよ。美人薄命とも言うし、無理は良くないと思う!

「俺は、津田さんと居た方がずっと楽だけど」

「そ……、そう、ですか? そう言ってくれるのは嬉しいんですけどー……はい……」

 そんな直球に言われると、反応に困るな。

 篠原くんはぐったりと、ミニテーブルにうつ伏せになった。柔い髪の毛が机の上に広がる。

「本当に疲れた……」

 篠原くんは目を閉じて、深く溜息を吐いた。前髪に隠れて表情が見えない。篠原くんが、こんなに疲れているのは珍しい。

 長い睫毛の間から、黒い瞳が揺らめいた。

「今までずっと気を張っていたから……。でも、やっと終わった」

 篠原くんは再び目を閉じると、静かに呼吸した。今まで忘れていたものを取り戻すみたいな、ゆっくりとした呼吸だった。

「……そうですか。いろいろ大変だったんですね……?」

 篠原くんが何で大変だったのかなんて、わたしには分からないけど。まぁ、学校には色々あるもんな。

 飲み物を取りに行って部屋を戻ると、篠原くんは寝息を立てて眠っていた。
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