幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
「ぎゃああ!も、腿が!」
「ほ、本田さん、落ち着いて。タツヒコには俺が言っておいたから、大丈夫だよ」

「言っておいたって……穂波君、火恩寺君と親しいの?」
 と掛け布団の上から腿をさすりながら尋ねると、
「まあね。同じ中学だったし、高校入ってからは、1年生の初めの頃、タツヒコが着ていたあの学ランの刺繍を頼まれてしたんだ。それから割と親しいよ」
 そう穂波君は言う。

「そ、そんな繋がりが……」
「タツヒコの後輩にも帰ってもらった。あそこまでの強面が揃うとさすがにみんなの精神衛生上良くないしね」
 穂波君は笑いながらそう言うけれど、笑い事ではなかったりする。

「何より、本田さんを怪我の原因をつくった奴らを残しておく気にもなれなかったしね」
 ほのかに、穂波君の言葉が険を帯びるのを感じた。
「ま、まあ、鼻も折れてないし、わたし元気だし大丈夫だよ」
 そう言って額の保冷剤を外そうとすると、額に予想外の手触りがあった。
 編み込み独特のあのでこぼことした手触りが。

「ほ、穂波君。まさか……」
 穂波君を仰ぐと、彼は苦笑いをしている。
「ごめん。我慢できなかったんだ。今日の本田さん、いつも以上にキューティクルが素晴らしくて……」
「寝ている間についつい編み込んでしまった、と」

「良くないよね、そういうの……」
「まあ、何だか穂波君らしい気がするから、いいけどね」
「ありがとう本田さん」
 そう言ってから、穂波君は保健室の壁にかかった時計を見る。

「それじゃ俺は一旦体育館に戻って、本田さんのこと伝えてくるね」
「え?わたしも一緒に行くよ」
「さっきも足、痛がっていたでしょ?無理しないほうが良いよ」
「平気だって」
 とわたしは布団をはぐと、足元に揃えられていたスリッパに足を置く。

 側に体育館履きも並べられていたけれど、ここからそれを履いていくわけにもいかないので、持っていくことにする。
 立ち上がると少しだけ目眩がした。

 穂波君の手前平気と言ったけれど、まだ全快じゃないみたいだ。
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