幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
 ドアを開こうと手を伸ばし、少しだけためらった。
 気をつけてね、そんなまほりの言葉が頭によぎったからかもしれない。
 それに、何だか分からない不安感が胸にふつふつと湧いていた。
 じんわりと皮膚に汗がにじむ。

 まとわりつく嫌な空気を一掃したくて、わたしは思い切ってドアを開けた。
 暗幕をめくり、中に入ると、とたんに強い光が迫ってきた。
 思わず目をつぶる。
 何日か前に、土手から落ちたあの日みた光の洪水だった。

 ほどなくして、瞼の裏に強い光を感じなくなったところで目を開けると、からからからと音を立て転がる瓶と――――
 白いシャツの背中が見えた。

 見覚えのある背中だ。
 特に、本人は無造作ヘアと言うけれど、寝癖のままかどうか疑わしい、とわたしはいつも思うその後ろ髪がその人物の正体をわたしに告げていた。

「コ……」
 声をかけようとするけれど、腰に回された腕と肩にかかる長い髪に気がついて、喉がつまる。

 頭の横から戸田さんが顔を出して、
「ふふっ。お迎えが来ちゃったみたい」
 と声をかける。
 戸田さんのその言葉に、背中の人物はハッとこちらをふり返った。

「ミサキ!?」
 やっぱり思ったとおり、幸太郎だった。
 わたしがやって来たことに驚いたようで、幸太郎は目を丸くしている。

 でも多分、それ以上にわたしの方が驚いていたし、頭の中が混乱していた。
 追ってきてみれば幸太郎は何だか知らないけれど元に戻っていて、戸田さんと抱き合っていた。
 わけがわからない。
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