幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
 けれど、場面が変わった焔生神社での撮影のときには、わたしも幸太郎もすっかり穂波君と仲良くなっていた。
 子ども同士だとお父さんのこととなると云々……という厄介な事情もあまり問題にならないようで、わたしたちの仲良くなろう!というアプローチが功を奏していた。

 そこでの撮影はドッグレッドが修行の末に新しい技を覚えるというシーンらしく、レッドが活躍してスタッフの人たちとモニターを見ている間、幸太郎は歓喜していた。
 わあわあ言って喜ぶ幸太郎を穂波君がからかって、静かに、とスタッフに怒られる。

 ただ、ブルーがレッドやその他のメンバーとの考え方の違いから、一時的に戦線離脱するというシーンも一緒に撮られていて、緊迫感のある言い合いのシーンもあった。

 そんなシーンではみんな水を打ったように静まり返り、モニターをじっと見つめていたけれど、特に穂波君が真剣な顔でモニターを見ていたのが印象的だった。

 そのシーンの撮影が終わり次の撮影の準備に移ったとき、
「ねえ、さっき、お父さん見てたの?」
 幼いゆえにチャレンジャーなわたしがそう聞くと、特にいきり立つ様子もなく、
「別に」
 と少し悲しそうな顔で穂波君は言った。

「和史君のお父さんかっこいいね。わたし好きだよ」
 そんな表情を読み取ったのかいないのか、わたしがそう言うと穂波君は、何か文句がありそうに口をとがらせる。
「あんなの、ヤクガラジョウのことだけど」

「ヤクガラジョウ。でも、かっこいいね」
「家にあんまり帰ってこないけどね」
「いつも、魔猿と戦ってるからだね。やっぱり、かっこいいと思う」
「女の人とキスしたりするけどね。ヤクガラジョウ」

「キスするのは、かっこいいから?」
「仕事だから」
「仕事をまじめにする人はかっこいいって、お父さん言ってた」
 ボキャブラリーのないわたしが、かっこいいかっこいいと連呼しているうちに、穂波君は、
「そっか」
 とだけ言って、柔らかく笑った。

 あ、ドッグブルーだ、と思い、なぜかほっとする。
 けれど、その後の穂波君の言葉でそんな感情もふっとんでしまった。
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