幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!

●カバ以上に好き

 朝6時数分前。

 熱を帯び色づく前の清浄な空気の中、わたしは覚悟を決めていた。

「悪かったな、こんな時間に呼び出して」
 用意された台詞を口にしながら、向かいの木陰を見ると、頭の上で大きな丸を作るまほりの姿が見えた。
 かかった、というサインだ。

 まほりには色々言いたいことがあった。あの後聞いた作戦の強引さについて云々と。
 けれど、こうして始めてしまった以上、やり通すしかない。
 まほりが戸田さんを捕獲してくれるまで、この茶番を演じきらなくてはいけないのだ。

「こんな時間に何の用だ?……それに、そのアザは一体?」
 餌、もとい松代君は眠そうな目をこすりながら、わたしの手足を見て、そう言う。

 確かに、Tシャツやハーフパンツから伸びるわたしの手足には、無数のアザが出来ている。
 アザのことを指摘されると、すぐさま、昨晩の男子部屋の地獄絵図が脳裏に蘇ってくる。
 あんなアクロバティックな寝相をわたしはいまだかつて見た事がなかった……。

 でも、今はそんなことを振り返っている場合じゃない。
「いや、このアザについては気にしないでくれ。それよりも、大事な話があるんだ」

 そう言った口から、ため息が漏れそうになる。
「何だか疲れているようだが……」
「これは、切なくて切なくて疲れて見えるだけなんだ」

 そう言っていて、何だか穂波君チックだなと思う。
 これは、まほりの脚本に問題ありだ。

「どうしたのだ、横堀?昨日から何やら様子がおかしいが」
「それは、その……お前のせいだ、イッセイ」

 ああ、ついに賽が投げられてしまった……。
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