幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
「これから、穂波青年にかけらを渡してくれるよう頼みに行くのでしょう?」
「多分そうなりますけど……」
 そうしないと、龍の力も戻らないし、ひいては幸太郎を取り戻すことが出来ない。

「では、タツヒコも連れて行ってください」
「わたしは構いませ――――」
「俺は構う」
 と火恩寺君が主張するものの、

「では、行ってらっしゃい。わたしは本宮に戻ります」
 とにべもなく男性は言い放ち、踵を返してしまう。
『我も行く。ひとたびねぐらへと帰り、二つのかけらの分の力だけでも力を取り戻してこよう』
 そう言って、すずめも飛んでいく。

 残されたのは、すごい形相で立ち尽くす火恩寺君とその視線を受けるしかない無力なわたし。
「と、とりあえず、穂波君を探しに行こうか?」
「……」
 無言。

「あの……嫌なら無理しなくても良いんじゃないかな?」
 恐ろしい形相の火恩寺君と一緒だと、わたしの精神衛生上よろしくない。
「これも修行か……」

 とぽつりと呟いたかと思うと、
「行くぞ」
 俵を担ぐようにしてわたしを肩の上に抱えあげる。

「え、ちょ、ちょっと!?」
 それから、例によって例のごとく、一足飛びで近くの木の上に上ると、そこから、ぴょんと湖の上に降り立った。
 そして、片足が沈む前にもう片方の足を前に出す、なんていうマンガみたいなことをしながら湖を横切る。
 ああ、せめて、行くか行かないかの意思表示くらいは言葉でして欲しかった……。
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